降伏宣言






 樹海地帯最深部。


 走りながら魔物を狩らずにひたすら奥へ奥へと進んでいく。


 魔物を狩りながらだと未開の地に行く前に満足してしまいいつもそのまま帰っていたのだ。


 これ以上奥はミースティアでは初めてだなと思いながら更に進む。


 どのエリアも決まっているのはエリアの最終ライン。


 落ちたら二度と戻ってこれないだろうなと思える程の崖があり下には雲が敷き詰められてその下を確認する事は出来ない。


 その近くに一軒家ぐらいの大きさのデカい門がある。


 俺は辺りを見渡してその門を視界に収めると直ぐに門へ行き、扉を両手で力一杯押した。




「わぁい、シンだ!」


 門の中に入るとジョーカーが俺に抱きついてくる。


 サクヤとアカネが一緒に遊んでるジョーカーが本体だが俺の目の前に今居るジョーカーは分身体だ。


「ちょっとロイヤルに用があるから先行くな」


「うん」


 門番がそれでいいのかと思うが俺は顔パスでアディショナルを目指す。


 野良の魔物とは違い感情があり言葉が話せる魔物が数多くいるのが未開の地だ。


 南側を魔物の狩場として使わせてもらったが知能は低くてもキング・クイーン・ジャックの名を冠する野良の魔物が多かった。


 スタンピードのBOSSがうようよと湧いてくるのが未開の地の特徴だと思う。


 その中でも異常に知能が発達した状態で生まれた魔物は似たような魔物達で国を作りアディショナルが生まれたとロイヤルに聞かされたことがある。


 俺が未開の地に来て初めて国に行った時の状況はスタンピードと似ているな。


 あの時は訳も分からずアディショナルの魔物達が総出で俺を倒そうとしていたから本当に魔物達からしたら俺がBOSSのスタンピードだ。


 ロイヤルとの戦いもそこが初めてだったな。


 違うところがあるとすればそこで消えた命はプレイヤーの様に再生はしない事だと思う。


 ゲームだからといっても気持ちのいいものではない。


 この世界での一つの人生を俺は数える事が出来ないほどに終わらせている。


 それを知ってから俺は国に乗り込む事を止めロイヤルの話に乗った。


 南側だけを狩場にしていた理由はこんな所だろう。


 アディショナルの国の門から中に入る。


 プレイヤー達の国とは違う視線が俺を包み歓迎ムードとは程遠い。


 ジョーカーは好意的だが他の魔物は違うようだ。



『悪魔め! 私が倒してやる!』



 人間の姿と変わらないが耳が尖っているのが特徴的なエルフ族の魔物の女の子が俺の前に立ち塞がる。


 短剣を持ち「とりゃぁぁああ!」と大きな掛け声を出しながら突っ込んで来た。


 俺は避けずに受け入れるとめちゃくちゃ痛い。


「どうだ参ったか!」


「もう終わりか?」


 俺は表情を崩さずめちゃくちゃ痛いのを我慢して見下す。


 短剣を抜き、また俺の腹を抉るように突き刺される。


「とりゃぁぁああ」


 何度も何度も刺され痛みを我慢しながら耐える。


 ReLIFEでこんなに胸糞悪い仕様にしたのはなんの為か疑問に思うが俺が反撃することは無い。


「お父様を返せ!」


 泣きながら訴える女の子に俺は謝罪をすればいいのか。


 遊びと思ってたこのゲームの世界で生まれこの世界しか知らない女の子に頭を下げるのか。


 俺はロイヤルにこの国の魔物には手を出さないと誓っている。


 俺に出来るのは受け入れる事だけで俺の謝罪などこの国の魔物は求めていない。


 本当に胸糞悪い仕様だ。


 俺が謝罪したとしてもこの女の子の父親は帰ってこない。


 その現実を突き付けるよりも俺に復讐するという意思で瞳を曇らせた方が良いだろう。


「サリナやめなさい!」


 ガっと俺から女の子を離すように母親が間に入る。


 サリナと呼ばれた女の子は悪魔を倒すんだと叫び決意で曇らせた瞳を俺に向けている。


 母親は一度も俺を見ず俺は止めてた足を動かし城へ向かった。









 城に着きロイヤルがいる所まで案内される。


「久しいな、シン」


「あぁ」


「浮かない顔をしているがこの国に来てまたやらかしたそうだな」


 さっきの女の子の事かと思ったが。


「なんでもない」


「そうか」


 ロイヤルもこの件に関して広げるつもりは無いのか話を切り上げる。


「何をしに来たんだ?」


「俺達プレイヤーがアディショナルに攻め込んで来るかもしれない」


 人間側からすれば魔物狩りは武器や防具を作る為の物だった。


 それがスタンピードロストを切っ掛けに本格的に狩る対象としてジョーカーを槍玉に上げている。


 ミースティアやアフィリンスを除いたとしても八の国は名を取り戻し次第ジョーカー打倒を宣言するのも当然だと思う。


 そうなればロイヤルはジョーカーを守る為に国同士の戦争になる。


「人間側は死に戻りという奇跡を持っている。数で押され続ければこの国が制圧されるのも時間の問題になるな」


 俺が言いたい事は既にロイヤルも分かっていたようだ。


「私達が降伏するかどうか聞きに来たのだろ?」


「そうだ。話し合いで解決出来るならその方が良いだろ」


「魔物の話など人間が聴くと思うのか?」


「それは……」


 降伏しても蹂躙されて終わりという未来も考えられる。


 実際に俺がしたように俺と同じプレイヤーはなんの躊躇いもなく攻撃をするだろう。


 ただの魔物として命を狩り取る。


 ロイヤルやある程度の力を持つ魔物は人間側の領域には来れない。


 唯一ジョーカーだけは門番としての役割として行き来する事が出来るだけで。


「ただ久しぶりに顔を見せに来ただけだと思ってくれ」


 俺はロイヤルがいる部屋から出ていく。


「それは嬉しいな。帰るところ悪いが少し頼まれてくれるか?」


「何だ?」







 俺はロイヤルに戦争が起こる可能性があると伝えに来ただけだ。


 長居する理由もないので大人しく自分の国へ戻った。


 宿に戻るとサクヤとアカネとジョーカーがキャッキャと女子会を繰り広げていた。


「お帰りなさい」とサクヤとアカネは俺に声をかける。


「シンだ!」


「ぐふっ!」


 飛びついて来たジョーカー。


 腹に物凄い衝撃が走る。


 俺を見る度にこれをやるのか。


「お前はロイヤルをあまり困らせんなよ」


「わかってる〜」


 ニコニコとしながらジョーカーは俺から離れサクヤとアカネの元へ戻っていった。


 俺はそれを横目にベットに寝転がった。







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