尊敬や憧れ







『ヒカリさんとルールブレイカーの戦闘見てるか!』



 誰かが呟いたコメントの一言から始まった。


「あぁ、今見てる!」


「馬鹿だよな。最上位クランのヒカリさんに勝負挑むなんて」


「ほんそれ!」


「変なコメントしてる奴ラクリガルドとの連戦見てねぇのか」


「ソロプレイヤーがラクリガルドに善戦してたって奴だろ。嘘か本当か分からないようなガセ」


「たまたま雑魚クランに当たって運良く勝ち越してただけだろ」


「俺達も暇人じゃねぇからルールブレイカーを崇拝してる奴らほどログなんか見ないし興味ねぇんだわ。今日でその真実が分かるって聞いて視聴してる」


 ミースティア専用のライブ放送で展開されるコメントは『ルールブレイカー』で埋め尽くされていた。


 ヒカリとルールブレイカーの戦闘が始まる。


「ほら見ろ。ヒカリさんに手も足も出ない」


 戦闘が始まると光の盾を展開したヒカリにダメージを負わせられないルールブレイカーに罵倒のコメントにも拍車がかかった。


「あんぐらいなら俺でも出来る」


「私も〜」


「俺もキャンセルぐらいな」


 ズラっと並ぶコメント。


「ルールブレイカー頑張れ!」


 応援しているコメントも見かけるが殆どがヒカリの応援とルールブレイカーの罵倒で埋め尽くされていった。


 状況も変わりヒカリのレアスキルが変わる。


「ヒカリさんが大鎌の武器を使ってる所初めて見た!」


「最上位クランに上がる前にヒカリさんが使っていた武器だな」


「最近のプレイヤーは知らないだろうけどアレを出されて止められる奴を俺は知らない」


「不可視の斬撃だっけ? あの時のヒカリさんは今のミリアさんと同じように凄かったよな」



 ルールブレイカーとヒカリの戦闘は激しさを増していく。



「うわ! 対人戦闘でエンチャントしてる奴初めて見た!」


「ルールブレイカーはラクリガルドとの連戦の最中にも使ってたぞ」


「すげぇ!」


「ソロじゃなければエンチャント付与の場面なんていくらでもあるだろ」


「いや、ソロでやるから凄いんじゃん」


「ソロだから凄いそのレベルだろ」



 ルールブレイカーがヒカリを追い詰め切り裂いた。


 各プレイヤーはその姿に驚きはする物の無傷で違う所に出現したヒカリに胸を撫で下ろす。


「大鎌にはあんなスキルまで付いてんのか! ヒカリさん無敵じゃん」


「これはルールブレイカーの負けだわ。対人戦闘じゃどうしようもない」


「ヒカリさん強いな!」


 鎌の斬撃を何度も避ける姿で少しづつプレイヤーの意識が変わる。


「お前らあの斬撃を躱す事出来るか?」


「無理に決まってんだろ」


「ルールブレイカーいつまで避けるんだ!」



 ルールブレイカーとヒカリの読み合いは瞬く間の出来事だがその一瞬を逃さない様に画面に被りつき眺める。


 ルールブレイカーが詠唱キャンセルをミスって立ち止まる。


「ほら見ろ」


「ルールブレイカーの負け決定」


「少し期待した俺がバカみたいだ」


「はい。解散解散」


 刀を降ろし立ち止まったルールブレイカーを見ながら失望するプレイヤー達。


 その瞬間にルールブレイカーの纏う青白い炎に雷が走る。


 状況は瞬く間に変化してヒカリを追い詰めるルールブレイカー。


「エンチャントって重ねがけしていくものだったのか!」


「お前そこに驚いてるのかよ! ワイも初めて見たわ」


「クラン戦でも最上位エンチャントを重ねがけするシーンなんてクールタイムが長すぎて見れるもんじゃないぞ」


「対人戦闘で悠長にエンチャント重ねがけしていく奴なんているわけないだろ」


「最上位魔法のエンチャントを戦闘中に詠唱キャンセルで詠唱破棄成立させるとかどんな神スキルだよ」


「そうそれ! 詠唱キャンセルの上位互換だよな」


 負けを確信していたプレイヤー達の目の色が変わる。


「あの大鎌のスキルでダメージ食らわないはずだよな」


「固定ダメ与えるスキルなんて連発してたらクールタイムで隙を晒しまくりだぞ。武器についてるって言っても1とかゴミやんけ」


「ルールブレイカーはそのゴミ武器でヒカリさんにダメージ与えてるぞ」

 

「ルールブレイカーと俺達を比べんな!」


「っていうか俺達なら絶対防御で詰んでるんだが2個目のレアスキルの鎌は何だ?」


「ヒカリさんの雰囲気が一気に変わってゾクッとした!」


 ザッザッとルールブレイカーの勝利に期待を膨らませてコメントを打っていた腕が止まる。


 どのプレイヤーもコメントをやめた。



 光の盾を持ったヒカリとルールブレイカーは霧が晴れ現れる。




 どのプレイヤーの思いも一緒で。


 コメントの嵐は無くなり一文字も入力されない画面でただの一瞬。


 その一瞬をどうしても目に焼き付けたくなった。


 瞬く間にコマ送りしたかのようにルールブレイカーとヒカリの立ち位置が逆転する。


 決着はヒカリが粒子になりルールブレイカーが刀を振るった状態で止まっていた。


 息を吹き返したプレイヤー達の誰もが罵倒の言葉ではなく敬意や憧れを持って。


 プレイヤースキルが異次元な一人のプレイヤーに対して『いつか自分達のクランで勝ちたい』


 そう思えた。



 止まっていたコメントは流れ出しこの言葉だけで埋め尽くされた。



『ルールブレイカー』






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