レアスキル持ちとの二重奏






 最上位クランのマスターが相手だ。


 簡単に勝てるとは思っていない。


 レアスキルの複数所持は視野に入れるべきだ。


 ラクリガルドのマスターシオンとの戦いも最後まで実力を発揮してたかと言われれば怪しい。


 俺の体調が万全の状態じゃなかったにしても結果的には負けている。


 光の盾が無くなった事で守りが薄くなるはずだがあの大きな鎌には何かあるとしか思えない。


 不可視の斬撃。それも当たる直前まで反応すら出来ないほどの物だった。


 この感覚は知っている。


 確定で相手にダメージを与える避ける事が出来ないスキル。


 長距離でも関係がなく不可視と不可避が合わさった複合スキル。


 鎌を円のように回転させながら大振りのように俺に向けて振り下ろす。


 一、二、三。


 息を吐くと同時に射線からキキンと横に逸れる。


 ザッと俺がいた所の地面に亀裂が走る。


 休みなく振るわれる斬撃を詠唱キャンセルを駆使して身体を左右に振りながら避けていく。


 弧を描く鎌は風きる音と共に速度を増して斬撃の感覚が短くそして斬撃の威力と鋭さを増す。


 避けるのが精一杯な俺は詠唱キャンセルを多重に展開する。


 キキキキキキンと音を引き連れながら空へ逃げる。


 足場も逃げ場もない空へ。


 目線を下げると俺が何処に居るか鎌を休みなく振りながら探しているヒカリさん。


 俺は目を瞑りクールタイムを消費する。


 最上位魔法。


炎奏えんそう・エース・エンチャント』


 青白い炎を纏い空中から地面に着地する。


 最上位の身体強化魔法。


 俺に追いつける奴はもういない。


 ヒカリさんと目が合う。


 足に力を込めると瞬く間に距離を詰め、上から振り下ろされた鎌を受け止める。


 ガッと地面が沈み斬撃の重さで膝を着く。


 受け止めた筈なのに触れてないはずの左肩にズバッとダメージを受ける。


 ググッと押し負けていくが堪える。


 あと少し。


 あと少し引きつければ。


 刀の先をズラし鎌を身体から逸らす。


 円のように回転させられ放つ技は溜めが必要な技だ。


 一度止めてしまえば再度放つのにクールタイムのような間が発生する。


 鎌がヒカリさんの後ろに隠れた瞬間に刀を首に添わせ振り抜く。


 クリティカルは発生せず刀は首を通り過ぎその空間はブレる。


 目の前からヒカリさんは幻影の様に消え俺はその場から跳ねるように飛ぶ。


 俺が居た所はザッと地面が抉れ後ろに視線を飛ばす。


 鎌は円を描きながら今までにないほど加速させ準備万端と俺を見ているヒカリさんの姿が映る。


 振り出しに戻った俺は斬撃を避ける事に集中する。


 鎌を止めクリティカルを狙えば幻影が目をくらませ、遠ければ不可視と不可避の斬撃。


 レアスキル様々だな。


 ピキンと動きが止まる。


 詠唱スキルのクールタイム。


 これだけ詠唱キャンセルをしてればいつかは来る現象だ。


 俺も一人の人間で詠唱キャンセルは重ねる毎にその難易度は増していく。


 俺は刀を下ろし斬撃が俺を捉えてダメージを受けていく。


 体力のゲージが緑から嘘のようにガリガリと削れていく。


 こんなん無理だ。


 いくらプレイヤースキルで勝ってたとしても反則だろ。


 ヒカリさんの目を見れば失望の光を灯す。


 緑だった体力のゲージが今では赤く点滅をし出した。


 あと一撃貰えば俺の負けが決定する。


 早く終わらせてくれ。


 俺の願いは数瞬の間に叶った。


【1】


 ビリビリと青白い炎に電流のようなオーラが纏われる。


『二重奏雷火らいか・エース・エンチャント』


 これでやっとレアスキル持ちと戦える。



『ここからは俺のターンですよ』



 空を割くような甲高い音を引き連れてヒカリさんの鎌を掻い潜り刀を振るう。


 ザッと消える幻影を捉えて既に正体を現した本体に対して既に振るわれる刀。


 目を見開くその姿を見ながら【1】の固定ダメージが入る。


 その瞬間に至る所で【1】【1】【1】ズラっと並ぶ固定ダメージ。


 幻影が作り出す霧は瞬く間に広がりフィールドを覆い尽くす。


 一撃与えたら消える。


 それを脳裏に焼き付けながら次の獲物を探す。


 耳を澄ませば聞こえの良い鎌の風きり音が俺に居場所を教えてくれる。


 止まることなく加速させ、次第に追い越す。


「待ってましたよ」


 本体が出現すると同時に振られた刀。


 あと一撃。


 あと一撃。あと一撃。あと一撃。




 歩みを止めて何も無い空を刀でなぞる。


 霧は晴れ目の前に鎌ではなく光の盾を持ったヒカリさんの姿が見えた。


 ヒカリさんの体力も俺と同じように点滅を繰り返しているだろう。


 最後の一撃を残した事これは舐めプでもなんでもない。


 ただ単純に俺と一対一で挑んだ相手への敬意を込めてこの最後の時間を作った。


 涼し気な風。熱気を帯びているはずの会場はシーンと静まり返り俺達の一挙手一投足を見逃さないように視線が集まる。


 立ったままトットットとつま先で地面を蹴る。


 刀を構え。


 ヒカリさんも俺に倣う。


 ある程度の距離を保っているがその距離を一瞬でゼロにする。


 最後に言葉はいらない。



【1】



 クリティカルが発生し勝利の文字が目の前に現れた。







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