死神の扉
約束のクラン戦。
ザッザッザッと踏みしめる大地。
熱気を帯びた会場。
歓声が空気を揺らし、心臓の鼓動が早くなる。
この場面はクラン戦をしてるなら一回はある。
ただその場面で堂々としてる姿を一人も見たことは無い。
俺を捉えて離さない瞳に負ける事は微塵も考えてないのが伺える。
最初から一対一。
最上位クランの風格なのか重みなのか俺にはそんな物経験した事もないから分からないが。
俺にも言える事がある。
俺もソロで試合や経験を重ねて譲れない想いもある。
この戦いは負けてはいけない。そう思えた。
本気でヒカリさんは勝ちに来るだろう。
息を整える。
ヒカリさんは一言も喋らずただカウントがゼロになるのを待つ。
段々と数字の速さが遅くなる。
三から二へ。
二から一へ。
【0】
間延びしたブザーの音。
いつも聴く音より鈍く低音でそして長い。
肌がピリ付く空気を察して痛いと感じる。
先程までの歓声がピタリと止みと会場は時間が止まっているのじゃないかと錯覚する。
一歩も動かないヒカリさん。
会場の静けさとは裏腹に心臓の音だけがやけに響いて聞こえた。
足に力を込め跳ねるように駆ける。
俺のやることは変わらない。
キキンっと詠唱のキャンセル音を置き去りにして懐に潜り込むと刀をクリティカルポイントの首に向かって振り抜く。
カンっと鐘を打ったように重く刀が弾かれ後ろに強制的に飛ばされる。
ザザっと足が地面を滑り静止する。
ヒカリさんを見れば光り輝く盾が顕現している。
前のジョーカー戦で見えたヒカリさんのレアスキル。
正面からの突破は困難と左右に身体を振りながらヒカリさんの視線が離れた瞬間に後ろに回る。
ヒカリさんの盾は俺に反応してか後ろにも薄く引き伸ばされる。
試しに斬ってみるがまた弾き飛ばされ最初の一撃と何ら変わらない状況に陥る。
絶対防御の盾。
対人戦闘でこんなレアスキルは反則じゃないかと思えるがヒカリさんはそれほど俺に勝つ事に全力なのだろう。
有難いことだ。
ただ弾かれる俺の刀は【1】の固定ダメージが入る。
キキンっと休みなく振るう刀。
その都度、光の盾が追いかけ守る。
盾の光を振り切ろうと試してみたが絶対防御は伊達じゃなくクリティカルは狙えないと鼻から諦めた。
絶対の一撃がない俺は数で勝負をさせられる。
ゆったりとした動作で剣を抜いたヒカリさん。
【瞬神剣】
「チッ!」
俺は舌打ちしながら目に見えない斬撃を勘で避ける。
対人戦であまり見ることが無いクールタイムが異常な程長いスキル。
十連撃の衝撃波が波のように押し寄せる。
ヒカリさんの剣の軌道を読んでも当てにはならず目を凝らし感覚を研ぎ澄ませ。
空間の揺れを見ながら躱していく。
ヒラリヒラリと刀を斬撃に這わせながら十の連撃をいなす。
やたらと精神力を削られる。
それでも歩みを止める事は出来ない。
普通ならクールタイム後の隙は誰でもあるがヒカリさんの盾がその隙を許さない。
カンカンっと弾き飛ばされ距離を置かされる。
そしてクールタイムが終われば強力なスキルの行使。
次元を割くような斬撃。炎を纏い雷を纏い風を纏う。
地面が裂け雨のような斬撃が飛び交う。
どれもヒカリさんのスキルから織り成されている。
クールタイムは魔法が前でスキルが後だ、光の盾がクールタイムを帳消しにしている。
ただ全てのスキルの挙動と避け方は心得ているつもりだ。
それを見越してヒカリさんはランダムに変えられるスキルを使用している。
だが俺には通用しない。
初めて見るスキルじゃ無ければどうと言うことはない。
微かに聞こえるシュッとした風きり音。
ヒカリさんはスキルを発動してはいないが俺は頭で考えず身体を仰け反らせ後ろに飛びながら距離をとる。
「ッ!」
それでも頬に痛みを覚えて手を添えるとチリチリとしたダメージエフェクトが俺に刻まれていた。
レアスキルか。
ヒカリさんを見れば光の盾は消え剣も持っていなかった。
ただ大きな鎌を持ち死神を連想させる。
聖騎士のようなヒカリさんと噛み合わないその姿に後ろに一歩引いてたじろいでしまう。
『ここからが本番だよルールブレイカー』
一言も発さなかったヒカリさんは初めて俺に声をかける。
ここからが本番。
割と全力な俺はやめてくれよと心の中で思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます