影と本音










「アカネ何これ!」


「それはパンケーキだよ」


 パンケーキを見つめるジョーカー。


「美味しい物が食べたいって言ったのジョーカーちゃんでしょ?」


 アカネはパンケーキをナイフで切ってフォークで刺す。


 そしてジョーカーの口へとパンケーキを運んだ。


「あ〜んして」


「あ〜ん?」


「口を開けて」


 あ〜んと口を開いたジョーカーにアカネはパンケーキを放り込む。


 目を輝かせながらモグモグと黙って食べる。


「美味しい!」


「そう」


 アカネはジョーカーの反応に嬉しそうに頬を緩めると再度パンケーキを口元に持っていく。


 パクパクと食べてすぐに食べ終わった。


 アカネとサクヤとジョーカーの三人は食べ歩きをしていたのだ。


 次はあれ! 次はコレ! と目に付いた出店にジョーカーはスタスタと行っていく。


 初めての妹が出来た姉達はその可愛さにやられていた。


 時間もあっという間にすぎて辺りはオレンジ色に染まり始めた。


「ジョーカーちゃんもう遅くなるから帰りましょうか」


「嫌だ! 僕サクヤとアカネと遊ぶ!」


 駄々っ子のようにアカネとサクヤの服を掴み離さない。


 俺はそれを影から見ていた。


 探し始めてすぐに三人を見つけ付け回した俺はさながらストーカーのようだ。


 そろそろ俺の出番のようだなと影から出ようとするが思いとどまった。


 サクヤが駄々をこねるジョーカーの頭を撫でる。


「遅くなったら心配する人は居ない?」


「いる」


「じゃあ早くジョーカーちゃんの顔を見せて安心させてあげないと」


「うん、でも」


 二人とも離れたくないとジョーカーの瞳は訴えていた。


「私達とはまた遊ぼ。いつでもいいよ」


「ホント! じゃあ明日も来る」


「待ってる」


 お姉ちゃんをしてる二人はジョーカーを見送り手を振った。


 俺はそれを影から見ながら一安心する。


 さて俺も宿に帰るか。


 ひょこっと路地から顔を出したサクヤに俺はビクッと反応する。


「所で何してるんですか?」


「シン兄隠れる気ある? パンケーキ屋さんで隣の席に座るなら私達と一緒に回れば良かったのに」


「屋台をブラブラしてた時も焼き鳥買ってましたね」


 俺の完璧なストーキングがバレていただと!


「バレバレだよねアカネちゃん」


「うんうん」


 二人して俺を一通り罵倒する。


 しゅんとなった俺の両腕に柔らかい感触。


「ん?」


 左右から挟まれ両腕を掴まれた俺に逃げ場はない。


「一緒に帰りましょう」


「シン兄と私達のホームへ」


 いつの間に三人のホームになったんだ?


 まぁいいかと俺は連行されながらホームに向かった。






 アディショナルの城。その玉座から見える転移陣が光り輝く。


 人の形を作るとジョーカーが降り立った。


「ジョーカー? 言うことはありますか?」


「凄く楽しかった!」


 はぁ、とロイヤルは溜め息を吐く。


「そういう事ではないのですよ」


「ロイヤルさん怒ってるの?」


「帰ってきてくれましたし良しとしましょう。貴女はまだ幼いので人間に利用されないか心配なのです」


「シンも居たよ」


 ジョーカーが言うプレイヤー名を聞きロイヤルは眉間に皺を寄せる。


「またシンですか。問題が起こるとだいたいあの人の名前が出ますね」


 いっそう深い溜め息を出す。


「明日も僕はアカネとサクヤと遊ぶ約束があるからロイヤルさんおやすみなさい」


「待ちなさい」


「何?」


 引き止められたジョーカーはロイヤルの言葉を待つ。


「人間の領域にまた踏み入れるつもりですか?」


「うん!」


「ダメですよ」


 ロイヤルの物言いにジョーカーは何で? と口にする。


「心配する人が居るから今日は帰りなさいってサクヤに言われてアカネもまた遊ぶからって言ってくれたもん」


 ふむっとロイヤルは考える。


「今まで遊んでてこの時間に帰ってきたのはそういう事ですか」


「シンも僕にずっと着いてきてくれたんだよ」


「私の事を知ってるシンならそうするでしょうね」


 ロイヤルは頷くと。


「可愛い娘ですのでそのワガママを許可します」


「やった!」


 ジョーカーはパァっと花が咲いた様に喜んだ。


「ですがシンが居る国だけに限定してくださいね」


「うん! 約束する」


 タッタッタッと王の間から出て行ったジョーカー。




 周りを見渡して。


『私もシンからエスコートされたいな』


 誰もいない王の間でロイヤルは本音を呟いた。







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