満腹の空腹







 俺は始まりの丘から見える最初の木の近くまで来ている。


 まずアカネのレアスキルを手に入れる為の条件として【大樹の小枝】を一本拾ってお金に変える。


 それだけの物だがそれを千回繰り返さないといけない。


 俺はアカネが拾った枝を一円で買い取っていく。


 単純作業も終え次の工程に進む。


 海のフィールドに向かい小枝で稼いだお金を全て海に投げる。


 やりながらこれをどう発見するんだ? と思うが俺もレアスキルの入手に立ち会うのは初めてなので少しドキドキとしながら手順をこなす姿を見ている。


 次に防具や武器を全て捨てて下着の状態で海に入る。


 アカネは恥ずかしそうにしながら一つ一つ服を脱いでいく。


 それに魅入っていると。


「シン君?」


 サクヤから後ろを向けと目が訴えかけていたので大人しく後ろを向く。


 シュルシュルと服を脱いでいく音を聞いているとジャバジャバと水の音が聞こえ始めた。


 海に入っていったのだろう。


 俺は振り返ると既にアカネは居なくなっていて服だけが砂浜に取り残されていた。


 数分と数十分と経つがアカネは帰ってこない。


 手順はここまでだったが息がここまで続くはずがない。


 レアスキルを推測すると水中で息が長く続くとかだろうか? 確かに水中戦闘で息継ぎ用のアイテムを持ってないと息が出来なくて徐々に体力が無くなりゲームオーバーになるが。


 地味なスキルすぎてレアスキルには程遠い。


 アカネを心配しているとブクブクと海が波打つ。


 それを見ていると「ぷはぁ」と下着姿のアカネが海から飛び出して来た。


 アカネは水で出来た羽根の様な物で空を飛んでいた。


 レアスキルか。


「シン兄! 凄く綺麗な人がいた!」


 興奮するのは良いが自分の姿を確認した方が良いと思う。


 思い出したアカネはバッと身体を手で隠しながら空から降りてくる。


 俺は後ろを向いて服を着るまで待つ。


「シン兄いいよ」


 服を着たアカネに尋ねると。


 女の人が現れてこう言ったらしい。


【小銭を日々集め暮らし辛くなる事もあるのでしょう。ですが生きてください。貴女の恵みを受けその対価に水の精霊は貴女に水の恩恵を与えます】


 その後そのまま始まりの丘に戻るか恩恵を受け取るか選べたらしい。


 物を売りながら暮らして自暴自棄になって全てを投げ捨て海で死のうとすると水の女神が一発逆転のレアスキルを授けてくれるのか。


 見つけた奴はこの情報を金に変えたのか? それとも見つけたまま俺に譲ったのか。


 可能性としては前者だろうな。それよりもレアスキルって任意で受け取るか決めれるもんなんだな。


「すごい、すごい」


 アカネが跳ね回っているがクールタイムが存在しない永久的に空を飛べるスキル。


 それだけじゃなさそうだが羨ましい。


 気持ちを切り替えて次はサクヤのレアスキルを入手しに行く。


 天空かと視線を空にやる。


 その前に石を拾う。


 海岸に落ちてある石を大から小までアイテム化してボックスに押し込む。


 もういいだろうとミースティアに戻り気球で空に飛んでいく。


 気球の籠の中は三十人ぐらいは余裕で乗れるが席は満杯だ。


 男女のカップルだらけだ。


 俺が魔物狩りを樹海エリアに絞ってやる理由がココにある。


 基本的に海と天空はデートスポットとして人気なのだ。


 今日の海には誰もいなかったが普段は水着で騒いでいる奴らがグループで遊んでいたりする。


 夜は余計に人が多いし天空も夜空や真下に見える夜景が綺麗だと評判だ。


 実に腹立たしい。


 海底に潜った後や天空の階段を降りている最中に帰ってきたらイチャイチャな奴らを見る事になるからだ。


 実に腹立たしい。


 それに比べて樹海は心地がいい。


 オアシスだ。


 籠の中で変な現実逃避をしていると「ルールブレイカーじゃない?」とザワザワとしてくる。


 俺の情けない姿を見た連中だろうか?


 俺は違いますよオーラを出しながら気球の飛行を楽しんだ。




 少し時間がかかるがこの空を切るように昇っていく風を感じる気球は好きだ。


 海や天空のデートスポットは滅びれば良いと前の国ではサクヤをそこに誘えなかったヘタレの誰かが叫んでいた。


 懐かしい。


 ふわふわとした雲の休憩地点に着くと早速見下ろす。


 足がすくみそうになるほど高いが猛者はここから何もつけずに飛び立つらしい。


 無理だろ!


 切り替えて始まりの丘に目をやる。


 ここから魔物を倒すらしいが俺が考えていたのは岩を投げて始まりの丘の魔物を倒せばいいだろうと思ったのだ。


 サクヤにデカい岩や小さい岩を投げさせる。


 デカい岩は流石に押して落としていた。


 アカネと俺とサクヤで結構なストックがあるから数には困らない。


 周りのデート目的で来た奴らは何やってんだ? という目を向けて来たが気にせず続けた。


「やりました!」


 一時間かした辺りでサクヤが叫んだ。


 ピコピコと空中を指でなぞる。


 受け取るかの操作をしているのだろう。


 俺達の目の前に小さな人型が出来上がり空中を飛んでいる。


『天空からプレイヤーを狙い撃ちした貴女に妖精の私からプレゼント!』


 サクヤはプレイヤー倒したのか。


 急に岩が空から降ってきたら運が悪い奴は当たりそうだな。


 サクヤの左の瞳が金に輝き炎のように揺れ動く。


 そして光の弓が手元に現れた。


 妖精は役目が終わると直ぐに消える。


 サクヤは光の弓を矢も装填せずに引き絞った。


 すると引く手に応じて淡い光の矢が姿を現す。


 凄く様になってて綺麗だと感じた。


「サクヤ何かやってるの?」


「私高校では弓道部です」


 マジか!


 手を離しシュッと音がなると速度も速く一瞬で矢は遠くへと消えていった。



『魔物に当たりました』


 ……マジか。


 遠くまで見透す目と弓矢の創成。それに加えて必中?


 クールタイムも無いようだ。


「それ消せる?」


「固定の動作に入ると出たり消えたりするみたいですね」


 弓を構える動作をすると左目の光りが灯りと弓が創成される。


 すげぇ。


 羨ましい。


 そう思いながら用も済んだと俺はボーとしながら気球での空の旅を満喫した。


 気球を降りた後に二人には少し待っててもらい。


 噴水広場に行き無闇に噴水の周りを十周して妖精や女神が居ないかを確認し、息を切らしながら二人の元に戻った俺は何も惨めじゃない。


 お腹空いてなかったからお腹を空かせようとしただけだし。


 俺はこの後ランチを腹一杯食べた。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る