甘い修羅







 俺は宿に帰る。


 サクヤはまだ帰っていないようだ。


 カフェでアイテム化して貰ったコーヒー牛乳のストックを眺める。


 サクヤさんとミリアさんからは未開の地の情報と略奪戦のお礼だと渡された物だ。


 結構なストックの数に口が緩む。


 一本取り出してグビっと勢いよく飲み干した。


「くはぁ」


 コーヒー牛乳は最高だぜ!


 瓶をアイテムボックスに仕舞って俺はベットに勢い良くダイブすると枕に顔を埋めた。


 するとピコン! とメッセージが飛んで来た。


 前の国では結構な金が必要だったメッセージ機能はこの国では無料で使用可能になっている。


 無料だが今だに使い慣れないメッセージの通知を切ってるから音が鳴るのを不自然に思う。


 メッセージのメニューを開くと匿名が最新で一件


 未読のメッセージが四件もあった。


 この国に来て一切メッセージが来なかったのに今日は豊作だ。


 一番上のメッセージは置いておいて一番下からメッセージを開ける。


 アリサさんからで「もし良かったら運営クランに来ていただけますか? 場所を教えて貰えれば飛んでいきます」と書いてあった。


 これはもう何日も前の物だった。


 会いに行ったのでこれはもう意味が無いだろう。


 次に匿名に手を伸ばす。


【お礼だ受け取ってくれ】


 アイコンで表示されているプレゼントの箱をタッチするとアイテム欄が現れた。


 それを確認すると。


「レアスキルの入手方法?」


 それも二個だ。すげぇと思うが差出人が不明なぶん怪しい。


 なんのスキルか分からないが念願のレアスキルが手に入るのか!


 俺は差出人の事は深く考えずに貰える物は貰う主義だ。


 浮かれながら次のメッセージを開ける。


 最後の二件はさっき来た新しい物だった。


 アカネとサクヤから同じ時間帯にメッセージが飛んで来ている。


 珍しい事もあるなとアカネのメッセージを開ける。


【シン兄さっきの並んで歩いてた綺麗な女の人達だれ?】


 サッと閉じて次はサクヤのメッセージに移る。


【シン君? 隣を歩いている美人なお姉さん2人は誰ですか?】


 サッと閉じる。


 俺はベットから起きるとふぅっと一息吐く。


 ドアからガチャっとドアノブを回す音が聞こえると詠唱キャンセルを駆使して扉の前に移動し力いっぱいに扉を閉める。


 ググッと力を込めるが段々と開いていく扉。


 なんでこんなに力込めてるのに開いてくのか不思議だ。


 バンっと力負けした俺は扉から弾き飛ばされる。


 そこにはアカネとサクヤが居た。


「お二人揃ってお帰りですか?」


 変な敬語を使ってしまう程に瞳のハイライトが消えた二人は怖い。


 今少しでも動けば俺ですら遅れを取りそうだと直感が警戒を鳴らす。


 この二人の琴戦に触れないようにゆっくりとした動作で両膝を地面に付ける。


 こういう場面でなんで男は情けない姿勢を取るのだろうかと疑問だったが身体は本能でこうあるべきだとスムーズに動き納得する。


「で?」


 アカネの短い一言。


 怖い。


「お二人さん落ち」


 落ち着いてと言おうとして俺の視界が真っ暗に染まった。


 ハッと目が覚めベットから起き上がると剣を持ったアカネが剣を振った状態で俺を見ていた。


 俺は死に戻りをしたらしい。


 両膝を着いていた所から一瞬でセーブポイントのベットに寝ていたのだからそういう事だろう。


 最近ゲーム始めた素人の動きじゃない!


「そう言うの良いから本題」


「あ、あの人達は運営クランの人と最上位クランの人で未開の地の攻略法を教えてあげてただけで買い物とかに付き合ったのもお世話になったお礼のつもりだったからやましい事はないよ!」


 必死の弁明。


 自然と早口になるが一切噛むことなく詳細を話した。


「なら良かった!」


 パァっとアカネの顔が晴れて明るくなる。


 俺の周りだけ重力が増えたんじゃと錯覚していたが今では少し軽いぐらいだ。


 ホッとした俺はこちらからも聞いてみた。


「なんで2人は一緒だったの?」


「サクヤちゃんミースティアに居るって言ってたからクランに誘ってクラン戦に行って来たの!」


 サクヤに抱き着いたアカネは頬をスリスリとくっつけていた。


「随分と仲がいいな」


「同じ年齢だしモデル仲間なんだよ私達」


 世間狭いな。


「シン兄は雑誌とか見ないかもだけどサクヤちゃんは凄い人気なんだよ」


 アカネもモデルとして人気だとトモヤから聞いた事があるしそれ以上ともなればスラッしたスタイルで誰もが振り向く凛とした顔立ちなら確かにと頷ける。


「シン兄はサクヤちゃんを物にしたらしいじゃない」


 そこまで話す仲なのか。


 サクヤを見ればカァっと顔が赤くなっていた。


 それに釣られてこっちまで何か恥ずかしくなる。


「サクヤちゃんにならシン兄を譲ってあげてもいいけど、今だけだからね私だって」


「うん。私もアカネちゃんに負けないように頑張る」


 二人の世界はいつまで続くんだろうか。


 ピコンっと今だにビックリマークが付いたメッセージに目が行く。


 勢い良くベットから飛び出して二人の視線が突き刺さる。


「可愛い2人にお兄さんからプレゼントをあげましょう」


 俺は胸を張りながら二人に丁度手に入れた物をメッセージで飛ばす。


 その中身を確認した二人は俺の傍へ詰め寄ってくる。



「レアスキルじゃん貰っていいの?」


「シン君こんな物どこで?」



 二人には最近色々とお世話になった。


 これぐらいのお礼をしてもいいだろう俺には返しきれない沢山の物を二人には貰っている。


「アカネちゃんとサクヤがレアスキルを持てば上位クランに直ぐにでも上がれるんじゃないか?」


 サクヤのプレイヤースキルが高いのは昔から知っているがアカネも先程の動きを見れば最近まで始まりの丘の魔物相手に苦戦していたのが懐かしいと感じる程だ。


「私達上位クランだし」


「えっ?」


 俺は中級クランなのにと思うが。


「さっきまで中級だったんだけど投げ銭? が私達のクランは異常に高いらしいの」


 もちろん連勝だよ! と言うアカネ。


 アカネは友達から誘われたと言っていたしさぞ可愛いヤツらの集まりなのだろう。


 サクヤとアカネだけでも戦っている姿を見れるならそれは投げ銭せずには観戦出来ない。


 俺も見かけたら絶対にしようと心に誓う。



 レアスキルで喜んでいた二人だがサクヤが思い出したように「あっ!」と声を出して空中を指でなぞると俺にメッセージが飛んでくる。

 

「ジョーカーで調べたのですけど」


 俺の前に飛んで来たのは未開の地の魔物がスタンピードを起こした時の情報。


 この国では今だにないが他の国では何度かあったらしいのだ。


「スタンピードロスト?」


 ただのスタンピードじゃないのか?


「失敗に終わった国の所持金が全て無くなったようですね」


 所持金が無くなるということはこのゲームを最初から始めるという訳では無いがそれに近い事が起こる。


「一度国が消えます文字通りロストするのです」


 スタンピード失敗でもヤバいのにロストするのか。


 サクヤと見た儀式が頭にチラつく。


「俺達変な物見たようだな」


「ですね」


「もう私も入れてよぉ」


 早々スタンピードロストは起こらないだろうと話を切り替える。


 俺とサクヤの話に入れなくて泣きそうになっていたアカネも交えてレアスキルの入手方法を確認する。


 サクヤもアカネもレアスキルが貰えると舞い上がっている。


 嬉しがって貰えればやった甲斐があるというものだ。


 俺を除け者にしてどうやってクリアしようかと話してた二人。


 それを見ていただけなのに俺はクラン戦も出来なくて暇だからという理由で二人のレアスキルの入手を手伝うことにいつの間にかなっていた。


 断る理由も無いから良いけど「明日ねぇ」と帰って行くアカネ。


 俺に一度も話を振られることなく了承もまだしてない。


「俺に拒否権とかないのか?」


「シン君……ダメでした?」


 アカネが出て行った後ベットに腰掛ける俺に対して顔を覗き込んでくるサクヤ。


 上目遣いで頼んでくる辺り心得てやがる。


 暇だったから良いけどね!


 俺は簡単に了承すると明日に備えて眠りについた。



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