価値があるない消耗品
宿の一室で俺はサクヤが用意してくれた料理を食べていた。
サクヤに聞けば俺は三日間も寝ていたらしい。
リアルの時間でも休日が一日と潰れてしまっていた。
休日は殆どログインしてる俺には関係ない事だが。
もう略奪戦も終わったのだろうか? どれぐらい戦っていたのかは正直分からない。
多分だがミースティアは略奪戦の開示を最後までしないだろう。
「サクヤは来たばかりだが次に行くとしたらどの国がいい?」
この国に俺は居ていいんだろうか?
投げ銭機能も付けず報酬も殆ど寄付してたはずの俺は負ければクラン消滅のリスクがあったが【くうらん】と言う俺のクランは消えてなかった。
それどころか上級にもう少しで上がる程の金がある。
この国は個人のプレイヤーを守ろうとする。
また自分勝手だった俺はこの国に助けられたようだ。
ずっと情けないままだ。
拳に力が入る、強く強く歯を食いしばった。
『最後に負けたら意味ないじゃないか』
俺は自分に言い聞かせるように呟く。
「私は他国戦にシン君が出てきた時から見てたので分かります。立派だと思いましたよ」
スっと顔を上げると対面に座っていたサクヤが俺を賞賛する。
「ラクリガルドは他国戦をやると明らかな装備の差で有利が付きます。それなのにチート装備の恩恵を受けずソロで圧倒して数え切れないぐらいの勝ち星を稼いだのは他でもないシン君です」
他国戦をあまりやらなかった俺はこの国に来て初めて前の国との装備の差を感じたがサクヤは気づいていたらしい。
「シン君が勝ち星を異常なまでに上げると即刻上級クランのみの規制を敷きました。それなのにこの国は略奪戦の情報の開示すら成されてません」
サクヤの静かにだが澄んだ声がだんだんと強みを帯びてくる。
「この国のプレイヤーに責任を負わせない為というのは分かりますがシン君が出るまで負け続けていたのにそれは奢りでしかありません!」
俺の為に怒ってくれてるのだろうサクヤ。
「この国が負けるようなら断じてシン君のせいではないですよ」
サクヤの凛として静かに怒る様は見ていて気持ちが少し楽になった。
でもアリサさんとの約束も叶わなかった。
この国に恩を返す事も出来ずただクランの命を救われただけ。
何戦もやったがあまり覚えてなく実感もない。
まだ戦えると強く感じた俺の想いと最後の真っ暗になった瞬間の剣が振り下ろされるイメージだけが脳裏に焼き付いている。
何百戦もやれば話は違うだろうがソロプレイヤーの限界なんてたかが知れてる。どう頑張っても数十回ぐらいの戦闘が限界だろう。
俺は引き立て役にしかならなかった。
この三十戦ぐらいは超えてるとは思うが、それが無様に負けて後は任せた! なんてカッコ悪すぎるのも程がある。
「ありがとう」
俺に気遣ってくれたサクヤに感謝すると怒っていたサクヤの顔が綻んだ。
俺は膝に顔を埋めて部屋の隅っこで丸くなりたい衝動に駆られている。
でも顔を上げ料理を平然と口に運ぶ。
ダサい俺はサクヤの前ではカッコつけたくなった。
【最上位クラン ラクリガルド】ホーム。
シオンが声高々に叫ぶ。
「どういう事だ!」
「はい。武器の供給や防具の供給が間に合ってません」
シオンの前に職人の男が一人。
「はぁ? 金はかかってもいいから能力が同じなら買い揃えろ」
シオンの声にビクビクとする職人は口を開く。
「シオン様の剣は1本数十億で防具は今1つ10億円の値が付いていますがよろしいのでしょうか?」
「おい、お前。略奪戦のこの機にぼったくろうという腹か?」
ギロリ睨まれた職人はヘコヘコと頭を下げる。
「いえ、素材不足により価格が高騰しておりまして私共も困惑しているのです」
「素材不足?」
「はい。防具は魔物の素材を使うのですが私達が紙切れ同然の様に扱っていた魔物の素材が手に入りにくい物だったと最近になって分かったのです。今は数に限りがあり消耗品である剣や防具は相当な値が付きます」
「前買った時は素材5千円と職人手当で10万円だったんだぞ? それが素材だけで10億など信じられるか!」
「ですから私達も困惑しているのです」
ペコペコと頭を下げるだけの職人をホームから追い出し他の職人を呼ぶ。
その後に入っては出て行ったどの職人もとんでもない金額を要求して来たのだ。
「こんな大事な時に」
シオンは何が起こったのか理解出来ない。
ただ消耗していた武器を買い換えるだけのはずだったのにだ。
「今回はこの装備で乗り切る! 準備をしろ」
シオンは信じられなかった。
略奪戦が終われば適正の金額に値が落ちると楽観視していたのだ。
ラクリガルドにある未開域の魔物素材は全て一人のソロプレイヤーが日課として毎日狩っていた物だという事はまだ誰も知らない。
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