積み上げた成果





 ルールブレイカーが負けた瞬間に優先権が適用されなくなり溢れ出したクラン戦。


 一つの国を一人が止めていたという状況なら当たり前でラクリガルドともマッチングするようになった。


 ミースティアでは後少しで全てが終わると【最上位クラン ミースティア】のメンバーは思う。


 シンが作り出した勝ち星の重さと最上位クランとしての信条の重さを感じながらクラン戦に挑んでいた。


 その中でもミリアはヤル気に満ち溢れクラン戦を今か今かと落ち着きがない様子で待っている。


「団長! 疲れてます? なんなら休んでても良いですよ」


 ミリアは次のクラン戦の合間にヒカリに声をかけた。


「大丈夫。あともう少しだからね」


 休憩を挟みながらだがルールブレイカーと同じく連戦を重ねている。


「ミリアはルールブレイカーが負けて凄くヤル気だね」


「私はいつもと変わりませんよ?」


 休憩中にミリアだけは座ったり立ったりを繰り返し、勝ち星を何度も確認していた。


「愛しのルールブレイカーがラクリガルドから有利を取ってくれたのに信条を守った私達のせいでこの略奪戦に負けてしまえば頑張ってくれた彼に悪いからね」


「愛しのと言うのは違いますけどね」


 ミリアはヒカリのからかいに少しの訂正を加える。


「ルールブレイカーが負けた後に私達もラクリガルドが当たるようになったけどこの期間中に何があったんだろうね?」


「ラクリガルドの弱体化ですか?」


「流石ミリアだ。可笑しいよね? ルールブレイカーが他国戦に参加する前は全敗だったはずの中級以下のクランにも勝ち星が確認され始めた」


「ラクリガルドの戦闘履歴を見ると武器や防具の破損がここ何日かのクラン戦では多いように感じます」


「見るからに全体的に装備のレアリティが落ちている気がするんだよね」


 ヒカリとミリアは一番強い国と印象があるラクリガルドの不可解な現象に困惑せざるを得ない。


「じゃ、行きますか」


「団長早く行きましょう!」


 他国戦の申請をした後にミリアのネコミミがピョコピョコと激しく動き出す。


 ルールブレイカーに魅せられてからミリアの様子が違う事をヒカリは感じていたがそんなミリアを可愛く思いながらルームからフィールドに転移した。







 豪華な装備とは程遠いボロボロに傷が付き、いつ壊れても可笑しくない装備を見てヒカリは口に出す。


「ラクリガルドのマスターなのにそのボロボロな装備はなんだ?」


 眉間に皺を寄せたシオンは言葉を吐き捨てる。


「お前には関係ない」


 シオンはあからさまに機嫌を悪くして見せた。


 シオン以外のメンバーは規制を受けて参加出来ていない状態で即席クランの寄せ集めしかいない事もシオンの苛立ちを増加させる原因だった。


 カウントがゼロになると同時に最上位クラン同士の戦闘が始まるが結果は一目瞭然だった。


 ミリアが先行しシオンとの戦闘に持ち込んだ。


 連携が取れていないクランを撃破していくのは容易くヒカリは指示を出しながら周りのプレイヤーを確実に倒しシオンを追い詰める。


 ボロボロの装備では最上位プレイヤー同士の戦闘についていける筈もなく、中盤に差し掛かる頃にはミリアの猛攻に耐えられずシオンの武器防具ともに破損し勝負は決した。


「あの規格外な化物がいなければ!」


 シオンは敗北の文字を目にしながら呟いた。


「悪いけどミリアにとっての愛しの彼なんだ。化物呼びはやめてもらえるかな?」


「え? ちょ! 団長違うからね!」


 ミリアはヒカリの言葉に聞き流せない部分を発見し否定の言葉を投げかけた。







 シオンはそんな二人の馴れ合いを見ながら景色がラクリガルドのホームに切り替わる。


「チッ!!!」


 舌打ちをしながら机を強く殴りつけるシオン。


 最初の思惑とは違う結果が目の前にあって、防具も破損した鏡に映る自分の姿が異様に無様でしかたなかった。


 二週間分のルールブレイカーが他国戦に参加した履歴を確認しながらその強さに辟易する。


 ピックアップした戦闘では殆どのクランが武器や防具を破損させながら戦っている。


 それが何百戦ともなれば被害は甚大で本当にラクリガルドに対して一人で勝つ気があった動きとも取れた。


 自分が対戦するまでは甘く見ていたソロプレイヤーのプレイヤースキルはキャンセルタイミングだけを見ても神がかっている。


 殆どの国に勝ち星は上回っていたがミースティアだけは大きく離されていた。それも全てソロプレイヤーが起こしたとなれば乾いた笑いの一つも出る。


「こんな奴が俺の国にいたら」


 口から漏れた本音。


 そんな都合が良い事まで抜かしだしたとシオンは自分に対して呆れながら思った。


 国の情報でルールブレイカーと同じ名前を検索すると数件がヒットする。


 その中でクランを脱退した後、ミースティアに強制的に転移させられたとログがあった。


 詳細を掘り下げて調べていく。


 もうすぐに終わる略奪戦。


 諦め切れない想いは確かにあったがヒカリを手に入れる機会はまたあると楽観的に考える。


「なんでコイツが中級クランに居たんだ?」


 それよりもシオンはラクリガルドを一人で相手に出来る程のプレイヤーがクランを強制的に脱退させられ国を追放された事が気になっていた。





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