敗者の戯言
ゼロになるタイミングで駆け出す。
キキンとキャンセルの音を聞き流しながら一人一人を確実に仕留める事を前提に動く。
キキンと多重に重なるキャンセル音。
既に俺を囲む形で四人の男女が現れた。
流石にクールタイムを全員合わせるなんて芸当は出来ない。隙を埋めた動きで時計回りにスキルを放ってくる。
正面の男の剣を刀に合わせ軌道を変えながら正面から跳躍で突破する。
上級クラン以上の相手は詠唱キャンセルを常に展開しないと動きについていけない程に戦闘は加速する。
スキルを避けられてもそれをキャンセルしまた攻撃に移ってくる。
シオンは参戦して来ない、俺と四人の戦闘を高みの見物という所か。
後の五人もシオンと同様に動いていない。
ソロプレイヤーとの戦い方を分かっている。
普通なら十人が全員攻撃に参加するがそれだと逆に味方の攻撃が邪魔になりやすく俺が隙を突くことも簡単になる。
だがシオンの戦術は一人倒しても陣形が壊れず一人を補充する事で後六回は同じ状況で崩れない布陣が出来上がる。
最上位クランともなれば一人一人が個人でも最強クラス。
剣の鋭さを直に感じて震えてくる。
風を斬る音とキャンセル音、それを頼りに視覚外の攻撃は勘で避けていく。
少しでも読み間違えたら終わる。
踊るように躱していく俺の姿は周りからはどう見えるのか。
足を上げ腰を落とし前後左右と回転を加えながら跳躍して怒涛の剣の嵐を避けていく。
キキンピキンピキンと狙っていたキャンセル失敗音に釣られて刀を振り出す。
最強クラスのプレイヤーは首を差し出した形で消えていく。
【1】【1】
まず二人。
状況は変わらない、すぐに補充が入る。
キャンセルの技術は回数を重ねる程に難しくなる。
二人消えても焦りの一つも感じなく、連携は崩れたりしない所を見るに相当の熟練度を感じる。
前の上級クランとの対戦は途中から全員で前衛に参加し集中攻撃に切り替えたが俺の思惑とは裏腹に最上位クランに動揺はない。
ピキンと俺は固まるとクールタイムが発生する。
俺にも来てしまったみたいだ。
待ってましたと言わんばかりに目の色を変えて四人はスキルを俺に向けていた。
避けることは出来ない。
【555回】もの詠唱キャンセルをやれば一つぐらいは発動するだろう。
淡い青の炎が俺を包む。
囲んでいた奴等は目を見開き俺から離れていくが遅い。
『
最上位魔法の発動。
詠唱キャンセルは発動時にキャンセルする方法と、発動してからクールタイムに入ると同時にキャンセルする方法があるが俺が主に使うのは後者。
前者は比較的簡単にキャンセルできる、だが後者は簡単ではないがキャンセルを繰り返す事によって【詠唱破棄】ができる。
トモヤからすれば人間離れしていると言われる程の物らしい。
キキンとキャンセルの音を聞くと数段周りの景色が加速する。
【1】【1】【1】【1】
先程まで動揺していなかった奴等が目を丸くしたまま消えていく様は酷く呆気ない。
シオンに接近すると流石はマスターだ。
キンっと剣を刀に合わせる。
俺の動きが見えているのはマスターだけで周りの三人はまだ俺の姿を空に探していた。
力で負け弾き返されるが周りの三人に意識を切り替える。
味方を守れるほど俺の速さについて来れないらしい。
【1】【1】【1】
俺の姿を探してどこに居るのかも分からない状態で三人は首をはねられ消えていく。
残るは最上位クランのマスターだけ。
俺とシオンはキャンセルを繰り返しシオンは俺の刀に合わせるだけで必死な形相を見せる。
俺のプレイヤースキルが最上位クランの実力を上回っている事は明白で誰が見ても勝てなかった試合は覆った。
何重にも重ねられる詠唱キャンセルの音を置き去りにして最後の一太刀。
シオンでも反応出来ていなかった。
俺は【スラッシュ】のスキルを使い試合を終わらせる。
懐まで潜り込んだ俺の足がカクンともつれる。
失敗したと思いながらシオンとの距離を取るが全身が動かずクールタイムを疑うが俺にそれは無い。
力が抜けてバタッと顔から地面に倒れるとジャリっと土の味が口に広がる。
酷く重い身体。
魔法のバフがかかり軽いはずの身体は全身が鉛のように重くなる。
「二週間ぶっ続けで試合して全勝してた化物がやっと止まったか」
シオンは荒く息を吐きながら近づいてくる。
「ルールブレイカー、お前は強すぎる。万全な状態では無いにも関わらずお前のせいでこっちの被害は甚大だ」
指一本と動かない俺にシオンは剣を振り上げる。
「この試合に最上位クランとして制限を設けた」
何を言ってるんだ?
「この試合の敗者は一週間クランバトルに参加出来ない」
じゃあ俺はミースティアの一員として戦えなくなるのか。
『あばよ! お前が居ないミースティアなんか恐れる程じゃない。これからが俺達のターンだ』
俺はまだ戦える。
まだ!
振り下ろされた剣を最後に目の前は真っ暗に染まった。
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