吐き出されない想い







 カウントはゼロになり五人は俺に向かって駆け出した。


 剣を纏うは彩り煌めくスキルのエフェクト。


 二歩前に進み眼鏡を掛けたエックスの剣をバックステップで躱す。


 鼻先を通り過ぎる剣を見送りながら俺の両側から振り下ろされる剣を持つ双子の兄妹リオンとライカ。


 キキンと詠唱キャンセルを挟み更に後ろに逃げる。


 逃げた先には待ってましたと言わんばかりにレンとスミレが待ち構え上下水平に振られる剣。


 足に力を込めてクルンと視界が回る。


 水平に振られる剣を足は捉え、レンの剣を足場に空中に飛ぶ。


 全てのスキルを避けると円状に囲まれた中央に着地する。


 ピキンと凍りついたようにクールタイムが発生し全員の動きが止まった。


 レンに振り向き刀を首に持っていく。


 何も出来ず動く事が出来ない状態で鼻息だけは荒くして俺を睨みつけていた。


 それなりの大技を放った五人のクールタイムは長い。


 【1】【1】【1】【1】【1】


 シュッと刀を下ろせば固定ダメージと共にパリンと全員の剣が折れる。


「お前ら今ので終わってたぞ」


 時が動き出すと五人は全員俺から離れるように後ろに退いていく。


 ある程度の距離を保ちながら近づいて来ようともしない五人。


 エックスがクイッと眼鏡を人差し指で持ち上げると声を掛けてくる。


「シンお前そんなに強かったのか」


 それに釣られてリオンとライカもウキウキと口を開いた。


「今のどうやったんだよ!」


「私も凄いと思った!」


 はぁ、と深く低く息が出るのを感じた。



『お前ら俺に馴れ馴れしく話しかけんな』



 冷めた目で興味すらなく今の俺はコイツらを見てるんだなと自覚した。


 俺はコイツらと居た時も実力を隠していた事は一度もない。


 この国に来て急に強くなった訳でもない。


 大技を馬鹿みたいに使うゴリ押し戦法はカッコよくて目立ち。俺のような小手先の技を使う奴が足でまといだと言われただけ。それだけだ。


「お前ら今の自分の姿を見てみろよ」


 真上のモニターに映し出される五人の姿。



「消耗以外で武器破壊されるプレイヤーというのはなんて言われるか知ってるか? お前らが俺によく言って聞かせてくれたよな?」



 シーンと黙り込み何も言わなくなったヤツらに言葉を重ねる。



「足でまとい? 寄生虫? 邪魔者? 最弱プレイヤー? ありすぎてわかんねぇな。所でそんな奴に追い込まれてる今のお前らはなんになるんだ?」

 

 俺をクビだと追い出したレンを見る。


「悪かった」


「……なんの謝罪だ?」


「お前を追い出したのは悪かった。今から俺達とまたやり直さないか?」


 意味の分からない見当違いな物言いに頭が混乱する。


「お前を足でまといなんか言う奴はもうこのクランには居ない! また仲良く一緒に始めようぜ」


「そうよ! シン先輩こんなに強いって分かってたら追い出したりしなかったのに」


 レンの言葉にスミレも乗りかかる。


 キキキンと詠唱キャンセルの音を残して【1】クリティカルが発生する。


「な、ん……で」


 スミレは目を見開いて、なんでと言葉を置き去った。



『なんで俺がお前らとまた仲良しごっこをやらないといけないんだ?』



 俺に仲間なんかいらない。


 武器を持たない相手の首を切る。


 キキンと詠唱キャンセルを発生させ急接近すると首をはねて行く。


 一人一人と抵抗感も無くサクサクやられていく元仲間に対して胸糞悪い気分になる。


 自分をクビにした奴ら俺の力が分かってなかったんだと思い知らせて……そんな事はどうでもいいと気付いていた。


 ポッカリと空いた穴が復讐をしても埋まらない事はこの国に来て感じた恩が俺に教えてくれた。


 固定ダメージの【1】を横目にレンに問いかける。


「サクヤはどうした?」


 呆気なさすぎて刀が振り切られていた事を忘れていた。


「あ……」


 唖然とレンが口を開く頃には目の前から居なくなり【YOU WIN】の文字が現れた。


 無様に散った元クランを笑う事は出来ない。


 スッキリもせず、あの時感じたどうしようもない怒りはまだ燻ったまま残っている。


 この場面を夢に見て悦に浸る事もこの三年間何度かあったが現実に手にしてみると呆気ない。


「クソ」


 小さく言葉を吐き出し歯をギリッと噛み締めるとただ虚空を見つめて思う。


 思い通りにはいかないなと。


 ただ俺は自分の事より国を馬鹿にされた事を怒れた事が少し誇らしく感じていた。







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