リアルでもゲーム






 俺は寝ぼけ眼で暗い部屋をのそのそと移動する。


 冷蔵庫を開けて何も無かったのを確認するとランニングがてらコンビニに行こうかと靴を履いて外に出る。


 ReLIFEはゲームの体感時間は現実と変わらないが流れが早く、寝ている時間にダイブしている人が殆どをしめている。


 だからかゲームの中で時間を気にせずにプレイ出来るのも売りだった。


 寝ながら遊べて金になって時間は気にならない。


 ハマらない方がおかしい。


 コンビニでインスタントの味噌汁とカップ麺。飲み物を購入して家に帰る。


 テレビを付けながらカップ麺にお湯を入れているといつもの様にニュースではReLIFEの危険性を事細かに言っていた。


 体感時間が一緒なのにゲームの中では一時間で一日すぎる。


 朝昼の時間は緩やかに設定されて日常生活に支障がないように運営側が寝る時にやれと推奨してる。


 ボトルポットは医療用の機器で短い時間に大量の休息を得られるように開発された物だ。


 それをReLIFEとして売り出した。


 廃人はまる1日飲まず食わずにやるらしいが俺には無理だ。


 大学生の身分では学校に行かないといけない。


 何年も昔から学校に行かなくてもいい家に勉強出来るデータを送れば済むじゃないかと声高々に言っていた奴等は何処に消えたのか。


 俺もそう思うので早くやれと思っていたのに。



 ピンポーンとチャイムがなりハイハイと重い腰を上げてドアを開ける。


『シン学校行くぞ』


 一言そう告げるイケメンの親友は原田友也はらだともや


 お約束通りなら可愛い幼なじみの女の子がいいに決まってる。


 俺は一度扉を閉めて再度開ける。


「現実は変わらないぞ」


 清潔感と真面目が合わさったようなイケメンでしかない。


「女の子になって出直せや!」


「馬鹿な事いってないで行くぞ」


「へい」


 毎日飽きもせず同じ事を繰り返す。



 俺はテキパキとシワが入ったブレザーに着替えて学校に向かった。


 登校中横並びに歩きながら俺はトモヤに口を開く。


「ReLIFEでやっとクラン立ち上げた」


「お前ならやると思ってたが良くやるな。ちゃんと食ってんのか?」


「今日もカップ麺だよ馬鹿野郎」


 はぁ、とトモヤは息を吐き出す。


「俺は料理はからっきしだからな。妹にお前の面倒を頼んでおく」


「……やめろや!」


「なぜだ?」


 何故ってお前の妹は高校生で俺の事をいつも殺意がこもった目しか向けてこないじゃねぇか!


 早く死ねば? と目を合わす度に言われるのに俺の料理の面倒とか見るはずがない。


「そう言えばお前の妹に何年と会ってないな」


「シンと会えない事を寂しがってたぞ」


 サラッと嘘つくのなんなんだコイツ。


 コレが大学で何人もの女性を虜にし粉砕してきた男の余裕という奴なのだろうか。


「俺達のクランもそこそこに大きくなってきた、会う日も楽しみだな」


 ゲームマナーかは分からないが国の情報はネットでも禁止され口外されない。だからリアルで友人達とReLIFEの話をしてもその国の中身までは話さず公開されている情報だけで話すのだ。


 そっちの方が楽しいと皆んなが思ってるからこのルールは守られているのだと思う。


 トモヤの居る国の名前すら俺は知らない。


 最初は一緒に始める予定だったのだが最初から国がランダムなんて聞いてなかった。


 友達と同じ国に居る奴等は少しだけ羨ましく感じた事もあるが、今ではこっちの方が良かったと思っている。


「妹もReLIFEを始めたからもし初心者で魔物狩ってたらよろしくな」


「カースト最上位の女子でもゲームやるのか?」


「今はやってない奴の方がおかしい時代だ」


 それもそうかと納得する。


 高校生の時にゲームの再現とか言ってリアルでも同じ技が使えるようにトモヤと身体を鍛えて特訓した事は数え切れないぐらいある。


 俺が無理に付き合わせていたのだがその頃からモテモテだったコイツは良く馬鹿な俺に付き合ってたよなと思わなくもない。そして頭が良い。


 俺はトモヤを置いて公園に向かって走り出す。


 朝が早く誰もいない公園。チラホラと高校生やサラリーマンが忙しなく仕事や学校に向かってるのが見える。


 俺は恥ずかしげもなくカバンをポイっと地面に捨てて不可視の刀を構える。


 トモヤが俺の後を追って公園に入ると俺の所作を見て呆れたように息を吐いた。


 そしてトモヤもカバンを投げる。


 バッと俺もトモヤも左手を上げる。



『『決闘だ。お前達は手を出すな』』



 決められたセリフを流暢に語り一息。


 始まってから一瞬で身体が動く。


 同時に動き出し不可視の刀と剣がつばぜり合う。


 脳内で戦闘を補完しながら戦闘は続いた。







 ゼェゼェとゲームのようにいかないなと思いながら地面に大の字で寝転がる。


「ほら行くぞ」


 涼やかな顔をして俺を見下ろすトモヤはイケメンだった。


 何だこの格差は!


「勝負は終わってないぞ」


 俺は必死で立ち上がりカバンを地面からさらう。


 スタスタと先に行くトモヤ。


 学校行くかと諦めてトモヤの後を追った。




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