神様の在り処






「うへぇ」


 ある程度受ける授業も終わり、気だるさだけが押し寄せる。


 俺は突っ伏しながら。


「へぇ、トモヤさんってお勉強は中学高校と学年トップだったのですね」


 女子に囲まれ根掘り葉掘り聞かれるトモヤを横目で見ていた。


 オシャレな飲み物はトモヤの横にいた俺にまで振舞ってくれた女子グループ。


 鮮やかな青のお茶? オシャレすぎて俺には味まで分からないような物だった。


 何かの花なのかフルーツなのかのお茶を嗜んでいた。


 ズズっとお茶を啜ると少し睨まれたが何か礼儀があるのだろうか?


 俺はこれをお茶漬けでご飯にかけるとどんな味がするんだろうと現実逃避を始めていた。


「シンもうそろそろ帰らないか?」


「え? あぁ」


 一切話を振られなかった俺は急に声をかけられ立ち上がる。


 別れを惜しむ女子達に「美味しかった」と告げて俺は先に行ってしまったトモヤの後を追う。


 俺の声など聞いていないだろうなと思いながらもお茶のお礼は言いたかった。



 走ってトモヤに追いつく。


「いいのか?」


「ReLIFEでクラン戦闘の打ち合わせがあるから早く帰りたかった」


 コイツもゲーム脳らしい。


「なんか特別なイベントでもあるのか?」


「なんか俺の国が忙しなくてな。ラクリガルドに勝ったクランには凄い額の報酬が手に入ると国からイベントを振ってきたんだ」


 俺の国では何も無かったなと思い返せば他の国ではそんな事もあるのか。


「だから勝つ為の作戦会議だ。何度かあの国の上級クランと他国戦で戦った事があるが勝敗にしたら全敗だからな」


 サラッと俺は上級ですよとアピールするトモヤ。


 涼し気に言うから取り付く島がない。


 コイツはコイツでさっきからピコピコと浮き出したモニターに何かを書いている。


 何かの資料なのか難しそうに打っていた。


 俺からではモニターは視認出来ない仕様だか気になるのは仕方ない。


 もう家も近くなる。


「また明日な」


「また明日」


 短い言葉と共に俺達は別れた。






 長い付き合いに比例して話す事なんかあまりなくなって来たが自分を飾らなくていいぶんトモヤとの時間は好きだった。


 エレベーターで三階に上り一人暮らしのマンションの扉を開ける。


『ご飯にする? お風呂にする? それとも死ぬ?』


 何それ怖い。


 それよりも一人暮らしのマンションに何故女子が。


「大人しくご飯で」


 トモヤの妹のアカネ。


 モデルもやってるらしく俺とは縁もないようなカースト上位の女子。


 難しそうに打っていたのは資料では無くアカネを説得してたのか。


 短いスカートにカッターシャツ。アクセサリーをジャンジャン着けるのではなく俺から見ても飾り気はない。


 自分の可愛さを分かっているのか何もつけない方が良いと分かっているのだ。


 飾る事をしない、兄妹揃ってそういう所は似ているな。


「トモ兄さんにシン兄の好きな食べ物聞いてたんだけど見てよ」


 スっと空中で何かを操作すると俺の目の前に開示されたメールのスクリーンが映し出された。


 何これ論文? 俺の好きな食べ物がズラっと端から端まで描き切られそれが何ページにも渡っていた。


 難しそうに書いてたのってもしかしてこれ?


「私も作るからには美味しい物食べさせたいからね」


 アカネがルンルンと扉を開ければ豪勢な料理が並ぶ。


「流石に全部は作れないから30品目ぐらいに絞ったけどね」


 兄妹揃って融通という物が効かないのだろうか。



 席に座って食べ始めれば凄く美味しかった。


 これだけ作ったのは何日分も困らない様に手をつけてない料理は冷蔵保存するという物だった。


「シン兄はなんで家に来なくなったの?」


 来なくなったと言うよりもトモヤに勉強を教えて貰いに中学高校はテスト前には必ず泊まりに行っていた。


 大学ではトモヤに及ばないまでも中学高校よりも厳しくはないからか勉強する必要が無くなっていっただけで。


「アカネちゃんは俺の事嫌いじゃなかったの?」


「嫌いだったらご飯なんか作りに来ないよ!」


 少し声を張り上げたアカネだが。


「早く死ねって毎度言われてたんだが」


「それは……風呂で遭遇したり部屋着の時に家に来たり着替えてる時に見られたりしたから」


 もじもじと言葉を濁す様にアカネは喋る。


 まぁ、『早く死ね』の印象が強くて風呂で遭遇とかは忘れてるが確かに俺が悪かった。


「私ね、ReLIFE始めたんだけどさ。同じ国に居たらで良いんだけど一緒にやってくれない?」


「魔物狩りとかなら付き合うぞ」


 料理のお礼と思えばそんなお願いならいくらでも付き合う。


 十の国があり、そうそう一緒の国と言う事は有り得ない。


 ご都合主義の神様がこの可憐な女神に味方をしたって会うことはまず不可能だろう。


 それを知ってかしらずか俺の物言いにホントに! と嬉しそうに顔を綻ばせるアカネ。


 俺も本当の妹のように接して来たからか自然と自分の口元が緩むのを感じていた。


 こちらも笑顔になる。







『待った?』


 噴水広場で待ち合わせる。


 初心者装備でもやはりモデルが着れば違うなと感心する。


『待ってないよ。今来たとこ』


 俺はReLIFEの中でアカネと待ち合わせして魔物が出る始まりの丘に向かった。



 どうやらご都合主義の神様は本気を出したようだった。





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