追放と脱退







【永遠の誓い】ホーム。


 ガタンと椅子が盛大な音を立てて壊れた。


「レン苛立つのは分かるがもう少し落ち着けよ」


 メガネをクイッと持ち上げて苛立つレンに言葉を掛けるのはエックス。


『何が落ち着けだ! 俺達のクランはずっと勝ててねぇんだぞ』


 この永遠の誓いはシンを脱退させた後に一度も昇格戦に勝ててはいない。


 それどころか初級にランクが下がりスポンサーも付かなくなったのだ。


 永遠の誓いクランメンバーは五名。


 シンが抜けた後に負け越して初級に下がった瞬間にサクヤは見切りをつけて抜けていったのだ。


 止めはしたがサクヤは聞く耳を持たなかった。


『このクランにシン君は勿体ないですよ』


 サクヤが最後に残した一言。


 レンがサクヤを狙っていたのはクランメンバーなら知っていたがその頃からレンの気性は荒くなっていった。


「レンセンパイ。今回は相手が悪かったですよ! 上級ぐらいの実力者達だったじゃないですか」


 甘えた声でクランの負けに理由をつけるスミレ。


「そう、だな」


 やっと落ち着いたのかレンはソファーにぐったりと座る。


 スミレは胸をなでおろしてレンの横にベッタリと座った。


 エックスがメガネの掃除を始めると口を開く。


「なぁ、もしかして俺達が中級に上がれたのってシンのお陰だったりしないか?」


「あぁ!?」


 落ち着いていたレンに再度火がついて行く。


 アワアワと二人を交互に見つめるスミレ。


「スミレが言ったよな今さっき負けた相手が上級者ぐらいの実力だって……本当にそう思ってんのか? 中級にいた俺達がボロボロに負ける相手だったか?」


 エックスの言葉にレンは考える。


 シンが居た時のクランなら余裕で勝ててた相手だった。


 シンが居ないだけで何が違うのか。


「俺達がシンに寄生してたって言うのかよ」


「俺達は何度もシンの脱退を議論してその度にサクヤが止めたのも懐かしい話だ」


「そんな訳ねぇだろ!」


 ガンっと机を蹴り怒りを露わにするレンの視界にピコンとシステムメッセージが飛んだ。



【他国とのランダムバトルが可能なクランは申請をお願いします】



 レンはすかさず詳細を確認する。


 他の国との勝利で【1万】の報酬だがミースティアとのバトルに勝利したクランは【100万】の追加報酬が送られると表記があった。


 他国との試合はラクリガルドでは勝てる試合。


 ここで勝てば上級クランに速攻で成り上がれる。


 自然と口が緩むのをレンは感じていた。


「ミースティアか」


 クランメンバーも顔が明るくなる。


『俺達のクランはここからまた始まるな』


 その場にいるクランメンバーに同意を得るとレンは参戦の申請を送った。






 クランからとっくに抜けていたサクヤはシンを探していた。


『シン君どこ?』


 シンとまた新しいクランで始める為に書いたメモ書きは何故かアイテムボックスに置いたままだった。


 シンがクランを作ればすぐに分かると最初は楽観視していたが。


 もう三年経ってしまった。


 一緒に魔物を倒してた頃に教えて貰った倒し方。


 魔物狩りもここまでやれば飽きてくる。


 シンのクラン以外に入る気はなく。


「もしかして国を移動した?」


 そんな事はないと頭を振る。


 シンはそんなメリットが無いことはやらないはずだ。


 プレイヤーのログを見ればまだログインしている事が分かる。


 それだけを頼りにシンが行きそうな所を探しているのだ。


 アイテムボックスからメモを取り出す。


【1ヶ月後にクランを抜けるので噴水広場でまた1から始めませんか? 少し待っててください】


 クランの為にとシンがそれなりのお金を持っている事は知っていて一ヶ月くらいならサクヤは待っててくれると思ってた。


 影で足でまといと言われたり脱退の会議を開かれてたりしていたシン。


 サクヤだけはシンの凄さを分かってると自負していた。


 ゲームを初めて心細かったサクヤにずっと優しい声をかけ続けたのはシンであり、クラン全体を守るように戦ってたのもシンなのだ。


 会議も無しにシンに直接クビだど宣言したレンに怒りすら覚えたサクヤだがメモを準備していたからその場では賛成したのだ。


 このクランにシンは勿体ないと本気で思っていたからこその行動。


 だが約束の日はすぎて何ヶ月と待っても現れないシンにどうして? という感情が湧いてくる。


 その時にメモじゃなく何かを渡したのだと気づいたのだ。


「会って誤解を解きたい」


 胸にぽっかりと空いた穴を塞ぐようにシンを求める。


 頼りになって優しいシンに恋してる自覚はなかったがこうして会えない期間が続けば会えない事が苦痛だと感じる様になってきた。


 恋してたんだと気づいた時にはシンは目の前から居なくなったのだ。


 三年経ってもこの想いは消えずに広がりすらあって。


『シン君どこ?』


 魔物のエリアの探索も終わると噴水広場に戻り今日もシンを探していた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る