上級クラン





【くうらん】


 クランバトル会場の真上に大々的に設置されたスクリーンはクラン結成と共に今まで名無しだったクラン名が記されていく。


 三年の長かった道のりに思いを馳せ鳴り止まない歓声を胸いっぱいに浴びる。


 本当に長かった。


 これでやっとスタートライン。


 所持金が一万円しかない俺は初級クランから始まる。


 クランのランクを上げる方法は簡単でクランに所属しているプレイヤーの所持金のトータルでランクは上がっていく。


 中級に上がるには五百万は必要で上級に上がるには五千万だ。


 中級のクランにいた頃は最低で二百万はキープしてクランの為にと使わずに持っていた。


 勝利報酬の分配も酷かったなと思う。活躍してないと言われ少ない額を渡されていたがそれは自分でも分かっていたから了承していた。


 今ではその行いも全部ゴミ同然だがな。


 憂鬱な気分になり昔を思い出したからなのかソロで挑んだ初試合ではこんなに観客は居なかったなと感慨深くなる。


 スっと所持金から一万円を抜き出し刀に触る。


『やっとお礼を言いに行ける』


 今まで頑張って来れたのはこの恩があったからだ。


 会いに行くとなると手土産でも持っていった方がいいのだろうか? 俺は今金がないし早速仮ではないクランバトルでもして金を稼ぐか?


 そんな風に考えていると。


 チャリンチャリンと。


 今まで微動だにしなかった投げ銭のカウンターが動き出した。


 もうこの試合から投げ銭機能が付くのかと目を向ければ。


【投げ銭ポイント5千万オーバー】


 無機質なアナウンスが俺の耳元で流れる。


 ん? 何かのバグか?


【初級クラン【くうらん】は上級クランにランクが上がります】


 ガガガと音を立て所持金が増していく俺はバグの修正はまだかと心底で焦る。


 俺の初級クランから上級に上がるアナウンスは会場中にも響き渡りそれに伴って地鳴りのような歓声が俺を包む。


 どうなってんだ。


 投げ銭機能だけで上級クランに上がる奴とか聞いた事ない。


 上級クランにはファンが付き一試合で数百万と投げ銭のカウンターが動くらしいが俺は今まで仮クランだったのだからそんな事はまず有り得ないだろう。


 今だに止まることを知らないカウンターに怖くなり俺はクランバトルの会場からすぐ様ログアウトする。


 ここ三年も宿に一度も立ち寄ってない俺は見慣れた噴水広場に降り立つ。


 ふっと息を吐いて変な緊張感から抜け出す。


 三年も費やした達成感からか早くと急かす心に突き動かされて考える暇もなく目的地を目指して歩き出した。


「ルールブレイカー!」


 遠目から俺を呼ぶ声が聞こえる。


「おっ! 生で見たの初めてだ。おーい、ルールブレイカー」


 それに釣られて周りのプレイヤーが遠巻きからルールブレイカーを口にする。


 何時の頃から言われ始めたのかは知らないが俺はこの国のプレイヤーから軽いイジメを受けている。


「ルールブレイカー」それを初めて聞いた時は何だか分からなかったが俺の顔を見る度にプレイヤー達が声を揃えて言うので確信した。


 ソロプレイヤーだからか変に注目されたんだろうとアタリをつけて無視を決め込んでいる。


 攻撃されるとか敵意むき出しとかではなく何故か笑顔なので俺も怒ったりはしない。大人な態度で接しているのだ。


 そして足を早めた。


 ここは何度も通った道。


 目的地に着いてピタッと足を止める。


 猫じゃらしの家を目の前にして息を飲む。


 魔物狩りのゴミを毎回店の前に置いて立ち去っていた俺は怒られるのだろうか。


 覚悟を決めて扉を開ける。


 オッサンは俺が三年前に来た時と同じ様にカウンターに座っていた。


 そしてギロリと俺を刺すように睨んでくるのも変わらない。


 あっ、土産忘れた。


「毎日毎日嫌がらせのように魔物のドロップを置いてたのはお前か?」


 誰がそんなことを!


「違います」


 俺は首を横に振って俺じゃない事をアピールする。


 やっぱり迷惑だったのかと変な汗が出てくる。


『覚えてるか? 今のお前は何年も前に俺の店を跨いだ時と何ら変わってないぞ』


 しまい忘れていた一万円を握り締めドアの前で突っ立ってる俺は三年前と変わってなかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る