ミース・スパイダー






 ミースティア周辺樹海地帯 最深部。



 俺は大きさが人程にある蜘蛛の魔物【ミース・スパイダー】を何十匹と屠りながら刀の切れ味を確かめ愉悦に浸る。


 系統は似てるが前の国では【ラクリ】の名を冠した魔物が居て、この国での魔物は【ミース】と言う名を冠していた。


 今戦っているミース・スパイダーは前の国には居なかった魔物だ。


 国ごとに魔物が違うという俺の読みは当たっていたようだ。


 狩り尽くした魔物だけと言うのも味気なかった所でこの国に来て初めてメリットという物を感じていた。


 スパイダーは糸を口から一直線に発射するだけの単調な攻撃しか持たないが、その糸は粘着性があり本体を倒しても地面に付いて一定時間その場から消えず行動を制限する。


 シュッと音が鳴ると【スラッシュ】をキャンセルして自動的に半歩前に出る。一本の線が俺を通り過ぎてビチャッと後方の地面に付いた。


 流石に糸が張り巡らされた白い地面に足の踏み場も無くなってきた。


 場所を変えるか? その考えが頭を過ぎる。スパイダーの恐ろしい所は数の連携とジワジワと追い詰める戦闘スタイルによる物だと思う。


 俺はしょうがなしと五秒間のクールタイムにより歩を止める。


 ネチョッと気持ち悪い糸が全身に隙間なく発射されていく。


 糸にダメージ判定はないのか痛みはない。


 大きな顎で最後はHPを削りに来るのだろうか? 気持ち悪くて鳥肌が立つ。


 キンっと五秒のクールタイムが終わり全身に炎が纒わり付くと炎は俺を起点に広がっていく。


『ファイヤスキン』


 範囲内に瞬間的な炎を生み出し敵を遠ざける事を目的にしたスキル。


 魔法は詠唱で威力や発動タイミングなどを指定出来るが俺はいつもオート機能を使っている。


 スキルウィンドウから思考操作で魔法を選びその場で発動を待てば発動するから楽だ。


 粘着性の糸はすぐさま燃え上がり、スパイダーにも糸から炎が飛び火する。


「ギェギェギュエエエ!」


 悲惨な雄叫びをあげながら連携が取れていたスパイダー達がのたうち回っていた。


 俺はすかさずスパイダーの弱点である沢山並ぶ目の中心を刀で刺していく。


 魔物を屠って来た数からくる経験値だろうか? 初見の魔物だろうと弱点はもうなんとなく分かる域に俺はいる。


 クリティカルを発生させながら一匹一匹と確実に仕留めていく。



 魔物を一掃すると額の汗を拭って一息着いた。


「良い運動したしクランバトルでもやるか」


 日課の魔物狩りも終わると国に戻った。


 帰り道でも見たことも無い魔物を何匹と狩りながらルンルン気分で嫌な事を忘れるように刀を振るった。






 猫じゃらしの家での一件。




「リグルのオッサン!」


 店から出たライヤが大声でリグルを呼ぶ。


「何時間お前はこの店で暇を潰すんだ。たく、今日は騒がしいな」


「店の前にあんた宛の小包が置かれてたぞ」


 店の中に戻って来たライヤがリグルに小包を差し出す。



 それを手に取り開封すると魔物のドロップアイテムがズラっと一覧のように現れる。


 その画面をスクロールしながら目を見張るリグル。


「『ミース・スパイダー』『ミース・ゴブリン』『ミース・スライム』『ミース・ゴーレム』『ミース・ラビット』『ミース・オーク』」


「なんかの手紙か? 始まりの丘から樹海最深部まで出会う魔物達だな」


「手紙じゃなく今言ったのは魔物達のドロップ品だ」


「は?」


 リグルに対してライヤは変な声が漏れる。


「ミース・スパイダーなんて素材1個ドロップしただけでも10万円はくだらないぞ」


「お前が今言った魔物のドロップだけで150個ある」


「……」


 ライヤは驚きに顔を染めて言葉が出ない。


「クランが五編成して挑む魔物だ。ダメージは無いが糸を避ける事はまず不可能に近い。その糸を脱出の為に一度でも燃やせば火の耐性が付く」


 ライヤはリグルの話を聞きながら復帰する。


「最初に出す糸はファイヤとか初級魔法でも燃えやすいんだけどな。あの糸の速度も尋常じゃないし絶対捕まる。俺も一度編成されて他のクランと行ったけどボロボロに負けて帰って来たよ」


「これソロで狩ったとしたらお前はどう思う?」


「狩れる訳ねぇよ」


「だろうな」


 リグルは笑みを深めてライヤに同意した。






 仮クランとクランの一戦。


 観客席は誰一人おらず殺風景なぐらいだ。



「お前一人とか舐めてんのか!」


 意気揚々と声を張り上げる目の前の男。


「仲間が集められないコミュ障だ。ほっとけよ」


 それを横から宥める男。


 後ろには三人の男の魔術師。


 前衛二で後衛三か。


 俺は試合が始まる前に猫じゃらしの家の前にドロップ品を置いてきた。


 魔物の素材は凄く安く最深部の魔物でも前の国では【100円】ぐらいの価値しかなかった。


 仮クラン状態の俺では魔物の素材を売る事も出来ないので少しは恩返しの足しになるかもと置いてきたのだ。


 ゴミだと捨てて無いといいな。そんな事を考える。


 今は目の前の敵に集中しないといけない。


 カウントダウンがゼロになるタイミングで笛のようなピーと無機質な音が響く。


 その瞬間……。










 ソロクランVSクラン。


【視聴者数23名】


 その誰もが一瞬で終わった試合に度肝を抜かした。


 猫じゃらしの家でリグルが開いていた中継を横目にライヤが口を開く。


「リグルのオッサン」


「なんだ?」


「俺、何時間か前にアイツ見た」


 ボケっとした口調でライヤは声を発する。



『奇遇だな俺もだ』



 五時間後の事だった。





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