森田さんが帰ってこない

 「おはようございます」

「おはよう!あらまこちゃん、またお疲れ?」と吉田さん。


 森田さんが、あの明け方置き手紙を残してから戻らぬまま一週間がたった。

心配で心配で、専用スマホからいくら連絡しても返事がない。

一人暮らし状態で気楽なはずが、私は疲れ切っていた。


「あぁちょっと、猫がいなくなりまして」

「え?まこちゃん猫飼ってたの?」


あ、何言ってんだ。まぁ森田さんとは言えないから。


「それは寂しいでぇ。なんにも言わんでも居てるだけでいいもんやからな、猫や犬は」


そうです。そうなんです。居てるだけでいいもんなんです。


「じゃ、今日飲みにいこ!ねぇさんが元気つけたげる」と吉田さん。


「はぁ。はい。」


 私は一週間飲んでいなかった。私が一週間禁酒なんて明日は嵐か雪かだ。

さらに私が眠れなくなっていた。

あの添い寝にいつの間にか依存していたのだろうか。なんて事でしょう。癒しのペットとお気に入りの抱き枕を同時に紛失したのである。



居酒屋でやっぱり私は悪酔いする....すいません吉田ねぇさん。


「まこちゃんにしては珍しいねっ。」


「ははは なんか酔いまわってしまって。居なくなってから飲んでいなかったんですよぉ〜」


「へーそんなに可愛いんだねっ。あんたさ、ペット飼ってる一人暮らしって結婚しない率たかいらしぃよ!気をつけなっ。猫に依存してたんじゃないの?危ないってそれ」


「たしかに、毎晩帰ったら居るか、私が先に居るかで〜あぁ晩御飯しないと。とか〜今日はどんな1日過ごしたのかな〜とか怪我してないかなとかぁぁ。はあ......大して言いたいこと言わないから、分かんないんですよね〜何考えてっかぁ、んでいざ同じベッドで眠るってなったらくっついて〜さみしぃすよ」


「あ あんた、大丈夫か?それ猫だよな?猫の話だよな?」

「へ?」

「なんて名前よ 猫ちゃん」

「たかしぃ」

「しぶいなっ。たかしか」


「あれっ?マジで酔っぱらいか?」


ん?誰だ


「あぁすいませんねぇ。響さん呼び出して」


「いいよ。まさかまこちゃんが、酔っぱらいか。てっきり吉田さんが酔っぱらいだと」


「失礼ですね」


なんで、吉田さん.....響さん呼ぶか。あぁ私を元気づけようと変な気使ったな....。


「じゃ、私はこれで」

「ちょっとー、吉田さん困りますぅ居てください〜居て〜っ!!」


「なんだよ、俺がそんな信用ないか」

「ありません....ふぁ はい。」


「あれ?吉田さんはぁ。」

「帰ったよ」


えー。吉田さんだから飲んだのにぃ。


「ずいまぜん、水お願いします」


店員さんを捕まえ水を頼み酔を覚ますに徹する私をよそに、今から飲み始める響さんだった。


しっかりしろ私。


「猫って、放し飼いじゃ無かっただろ?家から脱走したのか」

また、猫の話.....


「違うんですぅ。猫ではなくて....」



「すいません。お客様、そろそろ」


え?


「あぁごめんなさい。こんな時間まで。おぃまこちゃん」


ああ、なんてこと。私は居酒屋で響さんにもたれて寝ていたらしい。


「私どのくらい...あの、その寝てましたか」

「さぁ小一時間かな」

「あぁすいません。申し訳ございません」

「いいよ。寝不足か?いびきかいてたぞ」

うそっ。ひどっ。私.....

「嘘だよ」

「え」

「さっ帰るぞ」

「あ はい」


私は酔っぱらいのち人の肩借りて爆睡するというとんでもない失態を上司にしたのであった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る