エピローグ:全員ハッピーエンド
そして現在。本屋で実ちゃんの名前を見つけた。どうやら、彼女も付き合っていた女性と結婚したらしく、そのことに関するインタビュー記事が雑誌に載っているようだ。別れてから会っていなかったが、付き合っている女性が居ることは柚樹くんから聞いていた。迷わず雑誌を購入し、家に帰る。
「一条さん、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「プロポーズはどちらからだったのでしょうか。また、どのようなプロポーズでしたか?」
「彼女から『家族になりましょう』と」
「……それだけ……ですか?」
「……えっと……『ずっと側にいて。私の隣で一緒に生きてください』とも言われました。……はい」
恥ずかしそうに語るその姿は幸せそうだ。
「恋人はどんな女性ですか?」
「……そうですね。兄の柚樹に似てます。良い意味でも、悪い意味でも」
苦笑いしながら彼女が答える彼女の姿が浮かぶ。記者から「浮気の心配はありませんか?」という無粋な質問が飛んだ。彼女は「ないです(笑)」と答えているが、実際は苦笑いだったのではないだろうかなんて想像して私も苦笑する。
柚樹くんは現在、実ちゃんと同じクロッカスというバンドでギターを担当している。相変わらず性にだらしないイメージが強いが、なんだかんだで愛情深い人で、アンチは多いがファンも多い。
「一条さんといえばクロッカスのヴァイオリン担当でもありますが、メンバーにご報告はされましたか?」
「はい。プロポーズされたその日にグループLINKで。みんな、おめでとうと祝福してくれました。……はい」
目に涙を浮かべながら彼女は語る。その一文に、思わずもらい泣きしそうになる。なんとか堪えたが、記者の次の質問で涙腺は崩壊することになる。
「今、この喜びを一番伝えたい人は誰ですか?」
「……中学生の頃に『今はもう同性同士の恋はおかしいって時代じゃないでしょ』って言ってくれた先輩がいたんです。彼女とは中学校以来会っていないですが……彼女に……今、わたしは幸せですと伝えたいです。ありがとうございました。先輩。……先輩も幸せになっていることを願います」
隣に居る彼女が雑誌を読みながら静かに泣く私に気づき、何も言わずに私を抱きしめてくれた。
その後、由舞からも連絡が来た。『結婚するけど、君は招待しないからね』の一言。私も報告をしてお礼だけは伝えたが、彼女を招待することはしなかった。実ちゃんのことも招待はしなかった。
友人達から祝福を受けながら、私はそれぞれの道を歩み始めた元カノ達の幸せを願った。
幸せを伝えたい人 三郎 @sabu_saburou
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