後日談:歩の罪滅ぼし
前編:私の好きだった人
『君にお願いがあるんだ』
中学生の頃に付き合って、最近まで恋人だった人は言った。
『どうか、世の中の全ての人間が異性愛者だと思わないでほしい』
元彼——同い年の加瀬(かせ)泉(いずみ)くんはゲイだ。つまり、同性愛者だ。私のことを恋愛的な目で見ていないのは薄々気づいてはいたけれど、同性愛者だから私を好きになれないという発想はなかった。
私に女性としての魅力がないのかなとか、そんなことを考えていた。私が女性である時点で魅力を感じていない、感じられないのだとは、思いもしなかった。
『どうして付き合う前に言ってくれなかったんですか』そんな言葉は、彼の辛そうな表情を見た瞬間に消えた。裏切られたことに対する怒りは一瞬で消え、付き合うことが決まった日のことを思い出す。
その日私は彼の友人の高森くんに告白された。私は泉くんが好きだと高森くんに伝えた。それを、泉くん本人は聞かされた。高森くんがそう仕向けたのだ。あんな状況、断り辛いに決まっている。
だから私は、彼が流されて付き合ってしまったことはずっと疑っていた。そうだとしても、好きになって貰えるように頑張ろうとしていた。
彼から同性愛者だとカミングアウトをされ、頑張れば好きになって貰えると疑いもしなかった自分を責めた。『世の中の全ての人間が異性愛者だと思わないでほしい』という言葉が、重くのしかかった。
『俺みたいに言えない人もたくさん居るはずなんだ。俺達は何気ない会話の中で、当たり前のように異性愛者にされる。好きな女の子は居るの?とか、彼女作らないの?とか…そういう何気ない質問が辛かった』
私も付き合う前、彼にそういう言葉を投げかけたことがある。『好きな人は居るけど、彼女は居ないよ』という言葉に、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちになったものだ。それは私?それとも別の女の子?ともやもやしながら眠れない日々を過ごした。男の子かもしれないなんて発想は微塵もなかった。
『だから、もし聞くときは、性別を限定しないようにしてほしい。彼女彼氏じゃなくて恋人や好きな人に置き換えるとか。それだけで少しは打ち明けやすくなると思うんだ』
彼は決して、そんな愚かな私を責めなかった。
『別に責める気はないけど、君には、打ち明けても大丈夫な人になってほしいんだ。俺みたいに悩む人の味方になってあげてほしい』
それで私の罪が許されるならと彼のお願いを受け入れて、それからは友人との会話の上で恋人の話をする時は性別を限定してしまわないように気をつけることにした。
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