第31話 2週間後に パトリシア視点(2)
「テオドール様、こちらです。ここが、私が寄りたかった場所です」
今は私達が立っている場所、それはクーレル邸にある広々とした空間。こちらはパーティー会場として利用されている、私の人生が変わった場所。
クーレル侯爵家邸を訪れる機会は、もうないと思いますので。最後にどうしても、この方とこの場に立ちたかったのです。
「…………私は何度も招待状を送られ、幾度もここを訪れました。見世物、話の種にされてきました」
私がこの空間に足を踏み入れると、空気が変わるんです。沢山の視線と様々な悪口と陰口が生まれるようになって、それらが容赦なく突き刺さりました。
「…………この夜も、そうなるのだと思っていました。ですが、それは違っていました、大間違いでした。その日の私は、お声をかけられるんです」
壁の花となって、耐えるだけの時間。そうは、ならなかったのです。
「そうして私はテオドール様と出会い、それだけでも嬉しいことなのに、想っていただけて。世界が、変わりました」
灰色だった景色に、色が付く。赤や青や黄色や緑。目の前の光景が、ぱぁっと鮮やかになりました。
「交際をさせていただくようになってからは、もっともっと、様々なものを頂きました。熱で倒れた時は、お傍に居てくださって……。ジェルマン様の時は、怒ってくださって……。そして」
一度口の動きを止め、両手で顔を――。かつてコブがあった部分に触れました。
「あの変化が、呪いだと見破ってくださって……。即座に動いてくださって……。作戦を立ててくださって……。この呪いを、解いてくださった……。取り戻して、してくださいました」
もう二度と訪れないと諦めかけていた、かつての日々。私の、お父様とお母様の笑顔を、取り戻してくださいました。
「今のこの私で、こんな気持ちを抱いて、ここに立っていられるのはテオドール様のおかげです。見つけてくださって、愛してくださって、守ってくださって、ありがとうございます……っ。私は、幸せ者です……!」
今も私の胸元で輝く、お守り。そのエメラルドとそっくりな、綺麗なグリーン。目の前にある二つの瞳をすっきりとしている視界で見つめ、感謝と言葉と満面の笑顔を送らせていただきました。
そうしたら――。
同じようなお顔が、返ってきて。優しく、抱き締められて。そっとぎゅっと私を包み込んでくれたテオドール様は、不意にこんなことを仰られたのでした。
「レディ。よろしければ、僕と一曲踊ってくださいませんか?」
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