第30話 罰を受ける者~その2~ パトリシア視点(1)

「ブロンシュ様……! 申し訳、ございませんでした……!!」


 クーレル家当主、サンデルン様。彼は私達の目の前に着くや、背骨が折れそうなほどに深々と腰を折り曲げました。

 呪いは性質上再現はできませんが、証拠が揃い過ぎているため、メラニー様の罪は確定となります。そのため、もろ手を挙げての謝罪が始まりました。


「愚娘メラニーの所業は、返す言葉もない愚行。悪行中の悪行でございます……」

「「………………」」

「これらは全て、わたしの育て方が原因……。したがって責任は、このわたしにありまして……っ。クーレル家当主が責任を持って、償いをさせていただきます……っ」

「……………………」

「なんでも、実行させていただきますので……っ。どうぞ、仰ってください」

「……………………そうですか、では遠慮なく口にさせていただきますね。殿。貴男はただちに一切の地位権利を手放し、娘と共にクーレル家を出奔してください」


 沈黙し、クーレル様を見つめていたテオドール様。嘆息と共に出たのは、そんな言葉でした。


「貴男にはクーレル家を背負う資格どころか、貴族として振る舞う資格もない。クーレル家のお歴々の名を汚さぬよう、そのように動いてください」

「え……。え…………。た、確かに、娘の教育には失敗しましたが……。恥じぬ生き方をしてきたと、自負しております。な、なぜ……。そのような、お言葉を……?」

「騒ぎを聞きつけた時と、僕達の前に着いた時。『ブロンシュ様』と、口にしたからですよ」


 呆れと軽蔑を含んだ瞳。冷めた目線が、注がれました。


「この件の被害者は、長年苦しんだパトリシア様なのですよ? なのに何故(なにゆえ)貴男は、この僕に真っ先に謝罪を行ったのですか? まだ一度たりとも、パトリシア様に謝罪を行ってはいないのですか?」

「……そ、それは……。その……っっ」

「分かっていますよ。ここにいる男が、ブロンシュ家の人間だから、ですよね」


 私は子爵家の人間。対してテオドール様は、隣国の公爵家。それも、筆頭公爵家。本来はこうしてお傍にいることが不自然なほどに、身分の差がある方です。


「貴男の謝罪に反省の気持ちはなく、あるのは保身。いかに僕の怒りを鎮めるか――『いかに家と家との問題を穏便に済ませるか』、が重要だった。だからああいった行動に、なっていた」

「ち、ちが……っ。違いますっ! わたしはそんな打算な人間ではありませんっ。娘が協力を要請しないほどに、わたしは真っ当な道を歩んできた男で――」

「罪に手を染めないのは、正義の為ではなくリスクを考えてのこと。それも、重々理解していますよ。なぜなら貴男は長年、#罪にならない卑劣な行為__メラニーの暴挙__#を容認していたのですからね」


 メラニー様がパーティーで私を見世物にしている、それが邸内に伝わらないはずがありません。にもかかわらず、毎回招待状の送付を許可していた。

 それは、そういうこと。それもまた、嘘だということです。


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