第24話 再会 パトリシア視点

「テオドール様っ! テオドール様っっ!」


 顔からコブが消えてから、およそ四十分後。部屋の扉が開くや、私は広いお胸へと飛び込みました。

 令嬢としては、マナー違反な行動です。けれど、そうせずにはいられませんでした……っ。


「ありがとうございます……っ。テオドール様のお力によって、もとに戻りましたっ。戻れましたっ。ありがとう、ございます……っ」

「理不尽なものから解放されて、よかった。パトリシア様、おめでとうございます」


 そうしたらテオドール様は優しく抱き締めてくださり、柔らかいお声と笑顔を返してくださいました。


「背後に見えていたあの姿は見えなくなって、代わりに目の前にありますね。久しぶりの鮮明な景色は、いかがですか?」

「同じ世界だけど同じ世界ではない、そんな感覚です。この世界は……こんなにも色鮮やかだったのですね」


 視野の狭窄とコブによる圧迫の影響で、光景を完全に捉えることが出来ていませんでした。

 2年半ぶりの本物の景色は、とても綺麗で……。すっかり、忘れていました。


「そして……。なにより……っ。愛する方のお姿を、はっきりと見られる。それが、幸せです……っ」

「そう仰っていただける事、僕はそれが幸せですよ。…………お帰りなさい、パトリシア様」


 テオドール様は改めて私を見つめてくださり、私もまたテオドール様をじっと見つめます。

 テオドール様を見たい、見てもらいたい。そんな想いでいっぱいで、どのくらいそうしたのか分かりません。とにかくたっぷりと見つめ合い、そのあと、ふわりと。私の頬を、テオドール様の右手が撫でてくれました。


「貴女を蝕んでいた呪は、全てが触媒へと流れ込みました。そして素となっていたものは、破壊しましたので。回帰してしまう心配はありませんよ」

「はい……っ。……あの、テオドール様。テオドール様には、何も悪影響はないのですよね?」


 どこにも変化はありませんから、大丈夫だとは思いますが。確認しておきたいものですので、グリーンの瞳を見つめました。


「ええ、解呪の影響はありませんよ。僕には、ね」

「ぼくには、ですか……? それは一体……?」

「そちらは、帰路の車内で説明をさせていただきます。……相手は、ああいった者達ですので。五日後が楽しみです」


 クーレル邸や、その他の方向を眺めるテオドール様。そんなテオドール様によって私は馬車へとエスコートされ、私達を乗せた馬車はブロンシュ邸を目指して動き出します。

 伝書鳩さんにメッセージを託してはいますが、お父様達やアルノー様達に早く直接ご報告したいですし、皆様も直接会いたいと思ってくださっていますので。さっき通った道を再び通って出発地点へと戻り――。やがて私は沢山の笑顔に包まれ、そして、私達はとある秘密を知ることになるのでした。

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