第18話 動き出すテオドール パトリシア視点

「メラニー・クーレルは、目が酷く濁っていました。そのため相当に歪んでいると理解していましたが、想像以上だったようですね」


 クーレル侯爵家邸の手前――あちらからは見えない位置に停まっている、馬車の中。邸宅を直視していたテオドール様は、怒りを含んだ息を吐きました。


「変化をさせておいて、大勢のもとに呼び寄せて嗤う。悪趣味にもほどがあります」

「……はい。恐ろしい方、です」


 こんなことを、平然とできてしまうなんて。以前からそのように感じていましたが、今はそれ以上です。同じ人間とは、思えません。


「これまで応じていなかったのは、やはり正解でした。そして――。先日初めて応じたその判断は、大正解。面識がある相手なら、対処が楽になります」

「そう、なのですか……? テオドール様は、どうされるおつもりなのですか?」

「これからメラニーと接触して呪いの基を特定し、そちらを破壊します。呪を発動させている物がなくなれば、呪いは消え去るようですので」


 お馬さんの休憩中に、改めて説明していただきました。この手の呪いは触媒というものが必要で、それは存在していなければならない――どこかに保管されているのだと。


「幸いにも彼女は、公爵家の嫡男に興味を持っていました。そこを活かせばアポイントなしでも容易に近づけて、数時間内に触媒へと辿り着けますよ」

「数時間、ですか……!? そんなにも早く可能なのですか……?」

「ええ。出発前に用意した物達を上手く使えば、比較的楽に完遂できますよ」


 テオドール様はご自身の懐とポケットを順に一瞥し、車内にいらっしゃる護衛の方4人に今後の行動を指示されました。どうやら私は護衛の方と共に、道中にあった宿に隠れている必要があるようです。


「このまま徒歩で向かえば不自然となりますし、貴女が乗っていれば更に不自然となってしまいますので。そちらでお待ちください」

「分かりました。テオドール様、よろしくお願い致します」

「昨夜申し上げましたが、貴女の幸せは僕の幸せでもありますので。パトリシア様、お任せください」


 頭を下げて上げると、目の前には安心できる頼もしいお顔がありました。私はそんなテオドール様の指示に従い身分を隠して宿に入り、


「行ってまいります」


 テオドール様を乗せた馬車は、クーレル邸へと勢いよく発ったのでした。


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