第17話 切っ掛け メラニー視点
「メラニー・クーレル様、お初にお目にかかります。ハレミット子爵家のパトリシアと申します」
今から3年前のことは、今でも忘れない。わたくしはあの夜、宝石と出会った。
積もったばかりの雪ような、真っ白で綺麗な肌。色素の薄い、ふわりとした髪の毛。その下にある可愛らしいタレ目と、小さめの愛らしい体。柔らかさを含んだ心地の良い声。
社交界に初めて現れた、下級貴族の新入り。雪ウサギのようなその子は、稀有な美点を凝縮させた子で――
((ダメ……。勝てない……))
挨拶をされた瞬間、心が自然と負けを認めていた。
わたくしは自他ともに認める美少女で、少なくとも同世代では一番だと自負していた。けれど…………それは、勘違い。気付いていなかっただけで、遥かに上がいたのだと思い知らされた。
((こ、こんな子がいたら…………。きっと…………。奪われる……。わたくしへと向いていた視線達が、この子に向いてしまう……))
その予感は、的中。パトリシアはあっという間に注目の的となり、わたくしに夢中だった令息たちの姿は0。全員が、あの子のもとにいた。
「俺は、ハーネイン伯爵家のディック。ダンスを踊っていただきたい」
「僕はヴィンテル伯爵家の、クニスです。一曲いかがでしょうか?」
「ヤシニック侯爵家のリオンと申します。ファーストダンスは是非、僕とお願いします」
ずっとわたくしにべったりだった、男達。それどころか女達まで集っていて、わたくしの周囲は途端に静かになってしまった。
あちらは王の生誕祭のような賑わいで、こちらはまるで墓地のような静けさ。たかだか子爵家の女ごときに、全てを奪われてしまった。
それが、許せなかった。
「ああお帰り、メラニー。今夜も楽しめたかい――? どうしたんだ? 何か、嫌なことでもあったのかい?」
「いいえ、なんでもありませんわ。ところで、お父様。以前物置部屋で、面白い本を見つけていましたの。改めて内容を確認したいので、お借りしてもよろしいですか?」
「ああ、構わないよ。……しかしあそこにあるのは、先々代の私物だ。胡乱なオカルト関係のものばかりで、お前が楽しめるようなものはなかったはずだが……?」
「いえ、ちゃんとありましたわ」((その中の一冊に挟まっていた、紙切れにね))
ご先祖様はかなりのオカルトマニアだったようで、ヴァルニズの黒魔術師に関するものが――。呪いのかけ方が、載っていた。
「もしこれが本物なら、失ったものを取り戻せる。……試してみましょう」
お父様はわたくしを可愛がってくれているけれど、犯罪行為は許してくれない。でも。ひょっこり現れて全てを奪っていたあの女が、憎い。許せない。我慢できない。
だから記されている内容に従って人形を作り、その中に髪の毛――こっそり採っていたアイツの毛髪1本とわたくしの爪のかけらを詰め込み、顔にあたる部分にわたくしの血液で描いた魔法陣を描いて呪文を唱える。そうしたら、
ビンゴ。
魔法陣が禍々しく輝いて、この国に『化け物令嬢』が誕生したのだった。
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