第16話 管が伸びる先
「その道を右に進んでください」
「ここは真っすぐ。そのあとは、斜め右にあるへ入ってください」
「そこは左です。それからは…………管が、11時の方向に伸びています。道が分かれるまで進んだら、左折してください」
私から伸びる管が視えるのは、テオドール様だけ。そのため常時自ら地図と車外の景色を確認され、御者の方に何度も何度も指示を出し続けてくださいます。
そんな行動を、懸命にしてくださるだけでも有難いのに。テオドール様は、
「パトリシア様。あの約束は違えませんよ」
「僕が必ず、貴女を救います。安心してください」
「パトリシア様、管はどこまで続いているか分かりません。僕は徹夜には慣れておりますので、お休みください」
定期的に微笑んでくださったり、手を握ってくださったり。何度も何度も、私を気遣ってくださるんです。
ですので。呪いに蝕まれると知っても、少しも怖くはありません。この胸の中には、安心感しかありません。
「現在は、午前3時を過ぎています。この辺りは山間部――犯人の居場所は、かなり先になりますので。今のうちに、お体と心を休めておいてください」
「テオドール様、ありがとうございます。……貴方様を見守らせていただくことが、一番の休息になりますので。微力ながらご一緒させていただきます」
こちらは方便ではなく、事実です。なので私はタイミングを見計らって、携帯されていた塩グミや甘いビスケット――栄養補給の食料をお口へと運ばせていただいたり、
「テオドール様。他に何かご希望がありましたら、仰ってくださいね」
「これ以上のことなんて、ありませんよ。パトリシア様、おかげ様で力が湧きました」
そうして私達を載せた馬車は大地を走り続け、地平線からお日様が現れ始めた頃に越境。国境を越えて祖国に入り、見慣れた景色の中を進みます。
「今度は、右へ。次は……………………その先にある道を、左折してください」
「ここは、直進で。しばらくは現状維持で…………………………この先には、3本道があるのか。なら………………左斜め前の道へ入ってください」
朝陽に照らされる道を走って、南下したお日様の下を走って。やがて日差しが茜色になった頃――。出発しておよそ、19時間後のこと。ついに私達の馬車は、管の終着点に到達しました。
「元凶は、こんなところにいたのか。灯台下暗し、というものでしたね」
「…………はい。まさか、ここがそうだなんて……」
テオドール様は、呆れと自嘲混じりの息を吐きながら。私は呆然となりながら、前方を見つめます。
呪いの管が伸びている大きな建物。それはあの夜、私達が出会った場所。
クーレル侯爵家邸、だったのです。
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