第15話 呪

「呪い……? 呪いって、呪術などの、呪いですよね……? そんなものが、私にかかっている……?」

「間違いありません。丁度僕には、心当たりがあるのですよ」


 テオドール様は私のために、コブの原因を調べてくださっていた。その過程に『病気ではないのでは?』という疑問を抱かれ、黒魔術師という存在を把握されたそうです。


「漆黒よりも黒い、闇。禍々しいものがコブを覆っている――いえ、それらがコブを形成しています。……そして……」

「テオドール様? 私の後ろに、何かあるのですか……?」

「はい。そのコブの一つ一つから、漆黒の管のようなものが伸びていってます。恐らくそれらは、使用者あるいは触媒へと繋がっているのでしょう」


 黒魔術師の血を引いていない場合は、触媒と呼ばれるものが必ず要る。先日購入された古書には、そう記されていたそうです。


「つまり……。これを辿れば……」

「犯人を特定でき、触媒を破壊すれば呪いは解けるそうです。……パトリシア様。急激に、流れが傾いてきましたね」

「はい……っ。でも、どうして……。急に目視できるようになったのでしょう……?」


 呪いなんて、人知を超えるものです。なぜ、そんなものを……?


「僕は元々不思議な目を持っていましたから、そういった一面も擁していたのでしょうね。理屈は分かりませんが――。それが先ほどのキスによって、目覚めた可能性が高いです」

「そう、なりますね。テオドール様には、そんなお力まで――ぁっ! はい……っ。そうです……っ。テオドール様には、特別なお力がありました……!」


 思い出しました。

 数日前に、突然の発熱で倒れてしまった際。私は夢の中で『黒』に囚われていて、右手放つ光によって救われました。その先にテオドール様が握ってくださっていたのが、右の手です……っ。


「そうでしたか、あの時もお役に立っていたのですね。…………なるほど。あれも呪いで、となると――。犯人は今後も、動く可能性が高いですね」

「です、ね……。私も、そう思います」


 最初にかけられたのは3年前で、3年後にも攻撃されました。まだ満足していないようですので、危険性があります。


「……やはり、コブに触れても解呪できない――僕が解けるのは軽度の呪いだけで、次に大きなものが来たら防げないかもしれません。そうなる前に、#動きましょう__手を打ちましょう__#」


 テオドール様の瞳に力が宿り、「失礼致します」と――。私を横抱きにして廊下と階段を疾走し、アルノー様やお父様達に報告されました。


「僕はこれより、『管』を辿ります。父上、ハレミット卿。そちらはよろしくお願い致します」

「うむ、分かった。……しかしだ、テオドール。お前を信用してはいるが、事が事だ。備えあれば憂いなしで、我々も同行するべきだと思うが?」

「父上、だからこその別行動です」(最悪を想定して動いておけば、成功の確率はより上がります。念には念を入れておきましょう)


 テオドール様はアルノー様と小声で何かを交わされたあと、従者の方から2つの小瓶やいくつかの工具のようなものを受け取り服に仕舞います。そうして準備が整ったテオドール様によって私は優しく運ばれ、私達を載せた馬車はブロンシュ邸を飛び出したのでした。

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