第14話 新たに見え始めたもの テオドール視点

「パトリシア様のコブ。どうにかして、力になれないだろうか……?」


 しぶしぶ参加したパーティーで、思いもよらない出会いがあったあとのこと。帰路を進む馬車の中で、僕は腕組みをしていた。


 ――あの場でお伝えした言葉に、嘘はない。僕にとってコブは手足のようなもので、嫌悪感などは微塵も覚えていない――。


 だが、他の人間は違う。……内心気持ち悪がるなら、まだいい。会場でそのコブは話を盛り上げるための火種になっていて、悪口が飛び交っていた。


「こんなことが、あっていいはずがない。完治は無理だとしても、せめて少しでも改善させられないのだろうか……?」


 僕の恋人だという噂が広まれば、面と向かって口にする者はいなくなるはずだ。けれどあの手の輩は、僕がいない場所であれこれと言い出す。パトリシア様を玩具にしているのだから、新たな遊びを生み出してしまう。

 そこでコブに良い変化を与えられるよう、その日から調査を始めた。


「――こういった症状の人が居るのです。ご意見をいただけますでしょうか」

「…………う~ん。申し訳ありませんが、お手上げです。全く前例がなく、おまけにコブ以外の異変はなし……。直診しても、手掛かりと思しきものさえ掴めないでしょうね……」


 しかし名医を当たっても芳しくはなく、独自に医学書などを調べても全く成果はなかった。そのため、


「…………これは……。本当に、病気の類なのか……?」


 次第に、このように感じるようになった。

 突然発生。周囲はおろか国内、周辺国にだって同様のケースはなし。肉体自体に異変はなし。あまりに『病』からかけ離れているので、違う視点からも調べてみる事にした。

 そうして違う動きを始め、数日後。僕は偶然、とある書物と出会った。


「…………呪い……?」


 それは、当主代行として隣国・ヴァルニズを訪れていた時のこと。手がかりがあればと訪れた古書店で、気になる文を見つけた。


「…………かつてヴァルニズには……。黒魔術士という人間が、存在していた……」


 今は血が途絶えてしまった、その者達。彼らが操る術には、相手に不幸を与えるものが多くあった


「彼らは欲深く、権力者に力を貸したり秘術を教えたりしていた…………。それならどこかで方法が受け継がれている可能性はあり、何かと辻褄があう…………が……。そういった伝承があるだけなのか。創作物の一つである可能性が限りなく高いが、事実でないとは言い切れない。怪しくもある。後日、また調べてみるか」


 このあとは母国で予定が入っているし、もうすぐパトリシア様がいらっしゃる。そのためここで切り上げて国に戻り、仕事を片付けてパトリシア様と再会をした。

 そしてその夜、初めてキスを交わし――


((な……!?))


 僕は彼女の顔を纏う、禍々しいものを見たのだった。

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