第13話 2人きりで、伝えたいこと(2)

「……大好きな方からの、キス。それは、こんなにも幸せになれるものですね」


 口づけが終わったことによって、再びしっかりと伺えるようになったのお顔。テオドール様のお顔を見つめていたら、自然とこういった言葉が出てきました。

 体の中で喜びの光が生まれて、それがどんどんと増えていって、体中を満たしてくれる。周囲の温度とは関係なく、体内がぽかぽかします。


「知りませんでした。テオドール様と出会わなければ、この大きな幸福を感じることはできませんでした。……ありがとう、ございます」

「パトリシア様、僕も同じですよ。ありがとうございます。こんな感情と感覚を抱いたのは、生まれて初めてです」


 #相手の奥を見れる目__私のもう一つの姿が見える目__#の影響によって、どんなに上手く演じていても本性を把握できてしまう――。それによってテオドール様はこれまで一度も、僅かな恋心を抱かれることはなかった。キスをされたことさえも、なかったそうです。


「貴女と出逢えてから、休みなく変化が起きています。勿論それは、良い変化。その一つ一つが貴重、かけがえのないものです」

「はい、私もそうです。…………ですので、テオドール様。今度は、私のお話をお聞きください」


 まだ感触とぬくもりが残る、自分の唇に触れてから――。私は両手を前で揃え、姿勢を正します。

 馬車に乗る前に、お声をおかけしようとしていた理由。それをこれから、口にさせていただきます。


「………………テオドール様。私は今、人生で一番幸せです」


 一番。それは時として安易な印象を与えてしまうものですが、事実ですので。迷わず使用します。


「始めは喜びを感じながらも……。『こんな私でいいのかな?』そういった不安が、どうしても追随していました」

「……………………。はい」

「ですがテオドール様のお顔とお言葉をいただくたびに、そういったものが薄まっていって。今日あのように仰っていただけたことで、頭の中から消え去りました」


 初めて目にした、怒った姿。初めて耳にした、怒ったお声。その2つが、モヤモヤを追い出してくれました。


「……………………ですので……。テオドール様……。私は……。パトリシア・ハレミットは――? テオドール、さま……?」


 一歩近づいたら、目の前にある瞳が大きく見開かれました。

 こんなにも驚いたお顔は、見たことがありません。いったい、どうされてしまったのでしょうか……?


「…………すみません、パトリシア様。これは、無礼極まりない行動と重々承知しております。ですが看過できない問題が発生しましたので、中断をさせていただきます」

「は、はい……っ。ど、どうされたのですか……?」


 明らかに、ただ事ではありません。そのため即座に首を縦に振り、目の前にあるお口に視線を集中させます。

 するとテオドール様は、ゆっくりと私の両肩に手を置いて――恐らくは可能な限り私が不安にならないようにしてくださって、


「お顔にあるコブ、そちらが発生した原因が分かりました。…………貴女には、呪いがかけられています」


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