第13話 2人きりで、伝えたいこと(1)

「――僕はこれからもずっと、あの星のように動きますよ」


 椅子やテーブルがセンス良く配置されている、清潔感溢れる広々としたバルコニー。そこで揃って夜空を見上げていたら、そんなお声が聞こえてきました。


「パトリシア様。あそこにある星が、見えますか?」

「はい、見えました。赤色のお星さまの近くにある、お星さまですよね?」

「ええ、そうです。あの星は『二重星』と呼ばれる天体でして、実は2つなんですよ」

「えっ!? そうなのですかっ!?」

「望遠鏡で――展望台に設置されている望遠鏡で確認すると、ちゃんと大小2つの星があるのですよ。面白い星ですよね」


 テオドール様は空を指さしたままクスリと微笑み、その視線は私へと移動しました。


「いつも一緒で、離れることはない。まるで大きな星が小さな星を守護しているように見える、ソレ。……僕は貴女にとっての、大きな星であり続ける。今日のようなことが二度と起きないように、パトリシア様の心身を守ってゆきたいと考えております」

「…………テオドール、様」

「僕は持てる力の全てを注ぎ、貴女の平穏、笑顔を維持してゆきます。それは相手が誰であっても、関係ありません。たとえ王家の人間であろうとも、有言実行とします」


 テオドール様のお顔は真摯で真剣で、本心なのだと瞭然でした。

 この方は、どんな時でも守ってくださる――。絶対に――。それを本能的に理解してしまえる、そんなお姿でした。


「……自分の為に、誰かが傷ついてしまえば悲しまれる。貴女はそういった性質をお持ちな、心優しき方です」


 私の全身をゆっくりと眺めて、テオドール様は続けます。


「ですので、そういったこともまた、発生いたしません。その行動の際に、犠牲は生じさせません。僕自身も、笑顔で隣に立ち続けますので。ご安心ください」

「……テオドール、さま……」

「貴女の幸せが、僕の幸せでもあります。貴女が望んでくださる限り、そうさせていただきますので。パトリシア様。今後も、引き続きよろしくお願い致します」


 流麗に微笑んでくださったテオドール様は、私の右手をとって唇を落としてくださりました。そしてお口が離れると、また私へと微笑みがやってきて――。

 ですので、そうなるのは必然でした。元々秘めていたものが、もっともっと大きくなって。


「…………テオドール様。私の我が儘を、聞いていただけないでしょうか?」

「パトリシア様。それは、我が儘ではありませんよ」


 離れようとしていた手をきゅっと握り締めると、緑色の瞳が優しく見つめ返してくださって。そんなお顔がそっと、近づいてきてくれて。


「……パトリシア様。失礼致します」

「はい……っ。テオドール様、ありがとうございます……………………ん」


 やがて私の唇に、柔らかな感触とぬくもりが訪れたのでした。


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