第12話 良い予想外、悪い予想外(6)

「パトリシア様。ヤニック様、カロル様。大変失礼いたしました」

「わたくし達の身内の、数々のご無礼。お許しください」

「あの者の侵入を許した、わたし達にも責任はございます。この償いは、必ずさせていただきます。行いたいと、強く思っておりますので。なんなりとお申し付けください」


 嵐が去った、その直後でした。テオドール様、ベルナデット様、アルノー様は横並びとなり、皆様の頭が一斉に下がりました。

 あれは不可抗力ですし、ありがたい事を行ってくださったのに。それでもわざわざ、こうしてくださいました。


「そ、そんな……っ。頭をお上げください……! 私にとってはよくあることでして、けれど、本日は守っていただけた。それは、信じられない幸せなこと。私の中には、感謝の気持ちしか存在しておりません」

「我々も、同様でございます。わたし共への言葉、娘への言葉に即反応していただける――。こんなにも有難い事はございません」

「テオドール・ブロンシュ様。アルノー・ブロンシュ様。ベルナデット・ブロンシュ様。わたしどもの胸にも、感謝のみが宿っております」


 お父様もお母様も瞳を潤ませて頷かれ、私達も同じように頭を下げ返します。

 あの時の、皆様のお顔、声調。私は、忘れられないものをいただきました。


「テオドール様、アルノー様、ベルナデット様。私の為に、ありがとうございました」

「…………はい。こちらこそ、ありがとうございます」


 テオドール様は――アルノー様もベルナデット様も。意思を汲んでくださり、皆様の表情が和らぎました。


「父上、母上。それでは」

「ああ、そうだな。御言葉に甘え、中断していたものを再開させるとしよう」

「ええあなた。今から向かえば、丁度良い時間になるわね」


 私達はこれから、ご友人のリストランテを伺う予定でした。そのため移動の準備が始まり――


「パトリシア様」


 ――ブロンシュ家が用意してくだった馬車へと、乗り込む直前でした。テオドール様から、お声がかかりました。


「貴女に、お伝えしたいことがありまして。2人きりとなれるお時間を、食事のあとに作ってはいただけませんか?」

「はい、テオドール様。……実を言いますと、私もお願いするつもりでした」


 移動中に、お伝えしようと思っていましたので。驚きつつ、即座にお返事をさせていただきました。


「ありがとうございます。では、まいりましょうか」

「はい。テオドール様、ありがとうございます」


 そうして私は丁寧なエスコートによって乗車して、大きな馬車は動き出しました。そして四十分ほどで目的地に到着し、本当に久しぶりでした。カルパッチョや冷静スープなどなどなど――数々の絶品をお外で味わい、ブロンシュ邸に戻ったあと。私はテオドール様によって手を引かれ、3階にあるバルコニーに足を踏み入れたのでした。

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