第12話 良い予想外、悪い予想外(5)
「ジェルマン。僕の選択は間違っていたようだ」
「……テオドール。今、なんと口にしたんだ……? もう一遍言ってみろ!! 伯父上に対して――………………」
目を吊り上げながら、呼び捨てに反応したジェルマン様。彼は振り返ってようやく、テオドール様の目つきを知りました。
例えるならば、そこにあるのは極寒を引き連れた鋭利な氷柱(つらら)。目にした瞬間体温が大きく下がってしまうほどの、静かな憤怒を宿した瞳があったのです。
「ぁ、ぁぁ……。ぁ、ぁぁぁぁ……。ぁ、ぁ……」
#傍観者__傍で見ている私達__#ですら、こんな状態となってしまっているのです。そんな視線を直接浴びている人はその非ではなく、ジェルマン様はおもわずへたり込んでしまいました。
「ち、ちが……。こ、これは……。あ、あの、な……。あの、な…………」
「僕をとやかく言うのは、構わない。だが、彼女に対しての暴言暴挙は看過できない。直ちに――」
「わっ、悪かった!! そっ、そんなつもりではなかったんだっ!! 出来心だったんだっ!! ちょっ、調子に乗ってしまったっ!! 悔しかってついっ、なんだっっ!!」
すでにお顔は、真っ青。ジェントル様はカーペットに両手をつき、先程とは真逆の瞳で私を見上げました。
「先の発言は、撤回するっ!! させていただくっ!! 後悔してるんだっ!! 酷い言い草だったっ!! 暴言だった!! これから誠心誠意謝罪を――」
「謝罪は不要だ。貴様がこれ以上この場に居続けることが、何よりの『害』なのだからな」
テオドール様は淡々と遮り、パチンと指を鳴らします。そうすれば赤髪の男性――従者の方がいらっしゃり、ジェントル様を後ろ手に拘束しました。
「なっ!? 何をするんだっ!? 何をするつもりなんだっっ!?」
「これから貴様の身に起きる事。それは強制的な退去と、追放だ」
「追放っ!? バカなっ!? これくらいのことで――」
「このくらい? その程度を決めるのは、貴様ではない。ジェルマン、お前はそれだけの事を口にしてしまったんだよ」
「うむ、その通りだ。そしてテオドールは当主代行としても活動する機会があり、すでに当主と同等の権威を有している。それになにより、全会一致だ」
アルノー様、そしてお隣にいらっしゃるベルナデット様も。鋭い視線をジェントル様へと注いでいました。
「父とわたしの判断は、間違っていた。たとえ家族であっても、更生のチャンスを何度も与えてはならなかったのだ。あの時即座に、縁を絶っておくべきだったのだよ」
「貴様は人として、越えてはならない一線の一つを越えてしまった。こんな者こそ、この家には不要だ」
「まっ、待てっ!! 待ってくれっ!! 彼女に関する噂は仕入れているっ!! 隣国では多くの者が陰口を叩いているそうじゃないかっ!! そいつらだって――」
「その者達が言っているから、なんなんだ? それは免罪符になりはしない」
再び、淡々と。言い分は、遮られることになりました。
「51とは思えない発言だ。……僕達はこのあと、予定が入っている。これ以上、無駄な時間を使うわけにはいかない。その男を連れて行ってくれ」
「やっ、やめろ!! やめてくれっ!! あっ、あと一度だけ!! 一度だけチャンスを――」
「貴様はすでに、何度もチャンスを与えられていたはずだ。ジェルマン、甘やかされる時間はもうおしまいだ」
ジェルマン様は泣き叫びますが、聞き入れられることはありません。そうして闖入者はズルズルと引きずられてゆき、ぱたん。やがて、扉の向こうへと消えてしまったのでした。
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