第12話 良い予想外、悪い予想外(3)

「皆様、大変失礼致しました。この者は我が愚兄、ジェルマンでございます」


 私達と共に驚かれていたアルノー様は、咳ばらいを一つ。それによって当主然とした威厳と落ち着きが蘇り、立ち上がって私達3人に頭を下げた後、闖入者へと体全体を向けました。


「兄上、ここへの立ち入りの許可は――そもそも、敷地内への立ち入りの許可も出してはおりません。説明を――」

「俺は前当主の長男っ、お前の許可など要らんわ! 必要故に来ただけだ!!」


 アルノー様の実兄である、ジェルマン様。この方は何と、門番の方などの制止を振り切っていらっしゃられていました。

 ブロンシュ邸の今の持ち主は、アルノー様。いくら家族であっても、その理屈は通用しません。上位貴族とは――貴族、大人とは思えない言動です。


「……門番たちゲイルズ達には、身内であっても武力行使を許可しておくべきだったな。…………兄上、この件は貴男には無関係だ。速やかに引き取り――」

「無関係なものか!! 大いに関係ある問題だ!!」


 ジェルマン様は青筋を立てて遮り、ぎろり、と。激しく剥かれた瞳が、私達3人へと向きました。


「聞いたぞアルノーっ! テオドールっ! ここに居るのは隣国の子爵家の人間だそうだなっ!?」

「……兄上、言葉にはお気を付けください。まるで幼子(おさなご)のような――」

「やかましい!! うちは筆頭公爵家っ、王族の高貴なる血が流れる名家のだぞ!? こんな下級の血を混ぜるんじゃない!!」


 上級貴族の大半は、歴史地位で大きく劣る血が混ざることを嫌がります。そして、信じられないかもしれませんが――。そういった方々は大抵、こういった内容を面と向かって口にします。

 圧倒的に格下の者には、何をしても言っても構わない。どこの国にも、そんな歪んだ『常識』が存在しているのです。


「人間の資質は『血』で決まる! 有名貴族の養女となって嫁いだとしても、血は変わらん!! こんな血が入ってしまえば衰退は確定的だ!! ブロンシュの名を汚して――」

「叔父上、その辺に致しましょう。……これ以上進まれると、手荒な真似をしなくてはならなくなってしまいますので」


 ですが。『大半』ですので、全員に当てはまるものではありません。

 テオドール様も、静かに立ち上がられ――。静かな怒りを宿し、ジェルマン様を見据えたのでした。


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