第12話 良い予想外、悪い予想外(2)

「大きな力は扱い方を間違えれば、甚大な被害を出しかねませんからな。我々は、心を大事にしているのですよ。そういった意味でも、パトリシアくんとの交際は大歓迎。むしろこちらからお願いして、我が家(いえ)に入っていただきたい程なのですよ」

「こんな子が居てあんな場所で出会えるだなんて、思いもしなかったわ。パトリシアちゃん。実はこの子はね、あの日のパーティーへの参加はしぶしぶだったのよ」

「えっ? そうだったのですか?」

「元々当主殿の評判は悪く、貴女にわざわざ招待状を送ったように、主催者であるメラニー・クーレル様もまた瞳が濁っている人間の一人でした。ですのであまり深く関わりたくないのですが、隣国とはいえ立場上、一つの家にだけ顔を出さないのは問題がありまして。これまで何度もお断りを入れていましたが、初めて参加したのですよ。……そうしてパトリシア様と出会えたのですから、悪い事のあとには良い事があるようです」


「パトリシアくんは、最近外食が出来ていないそうだね? わたしの友人に、5つ星の――最高の評価を得たシェフが居るのだよ。このあと、彼の店に行こうじゃないか」

「そこは王家もお忍びで通う完全個室制のレストランテだし、その人も容姿で判断するような人間ではないのよ。6人で、楽しい思い出を作りましょ?」


「となれば、夜となってしまうな。……ハレミット卿。明日明後日のご予定はおありですかな?」

「い、いえ。ございません」

「それはよかった。では、我が邸で泊まっていただこう」

「ええ、それがいいわ。パトリシアちゃん、今夜はお背中を流してあげるわねっ」


 テオドール様がそうだということは、既知だったのですが。アルノー様もベルデット様も素敵な御方で、出てくる話題は優しくて楽しいものばかり。

 ですので私達に笑顔のお花が咲くのは至当でして、時間の流れが早く感じるのも当然のことでした。


「…………おや、もうこんな時間か。キリも良いし、そろそろですかな」


 気が付くと、午後の4時過ぎ。お喋りを始めてから3時間以上も経過して、アルノー様は全員の顔を見回しました。


「これより、ミュレスへと――件のレストランテに移動したいと思います。構いませんかな?」

「「「はい」」」


 私達は感謝を込めつつ小さく頭を下げて応じ、全員で立ち上が――ろうと、していた時でした。


「待てっ! 俺はその交際を認めんぞ!!」


 突然応接室の扉が乱暴に開き、細身の男性が――ヒステリックな印象を受ける、五十代半ばと思しき男性が飛び込んできました。

 この方は……。いったい……?


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