第12話 良い予想外、悪い予想外(1)

 再会できる嬉しさと、ご挨拶の緊張。2つの大きな感情を抱いていた私、だったのですが――。ご挨拶を始めて早々に、後者は跡形もなく消え去ることとなりました。

 なぜならば、


「君が、パトリシアくんか。よく来てくれたね」

「あらまあ、可愛らしい……っ。ね、パトリシアちゃん。1回、抱き締めてもいいかしらっ?」


 迎えてくださったテオドール様に導かれて、当主ご夫妻が待つ応接室に入った私とお父様とお母様。そこで私達を待っていたのは、テオドールの父と母アルノー様とベルナデット様による熱い歓迎。

 公爵家然とした厳かな挨拶が終わると表情が一変し、別人と見まごう程の柔和な雰囲気が生まれたのです。


「その瞳。良い性質を持った人間が、良い人達に囲まれて育ったのでしょうな。……なるほど。息子が惹かれるのも納得だ」

「まあ~、やっぱり良い匂いがするわっ。おまけにふわふわだし、ずっと抱いてたくなっちゃうわぁっ」


 アルノー様は破顔でお父様とお母様に握手を求められていて、私は現在ベルナデット様にぎゅっと抱き締められています。


 昔はそうだったのですが、こんな姿になってからは、私に関することでお褒めの言葉を頂いたことはありませんでした。

 お優しいティルファ先生以外で、自ら近づいてきてくださる方もいらっしゃいませんでした。


 こんなにもよくしてくださっているのですから、後者の消失は必然的でして。その代わりに、失礼なことなのですが。先ほどまで一面識もなかったはずなのに、今は昔からのお知り合いのような親近感があります。


「父上、母上。僕としてもお三方への絶賛は嬉しいものですが、皆様は長旅でお疲れでございます。まずは、お茶とお菓子を召し上がっていただきましょう」

「う、うむ、そうだな。いかんいかん、悪癖が出てしまった」

「ごめんなさいね、パトリシアちゃん。わたくしもこの人もずっとお会いしたくって、いざその時になってみたら、現れたのは予想以上の子だったんだもの。つい、羽目を外してしまったわ」


 テオドール様の微苦笑でお二人の興奮が収まり、ガラス製のテーブルを挟んでのお茶が始まりました。

 テオドール様のお父様とお母様である、アルノー様とベルナデット様。お二人は――


((こんな顔を見ても、平然とされていました))


 ――表面上ではなく、我慢しているのでもなくて。一切、コブを意識されていませんでした。

 そんな方々のお茶が、楽しくないはずなくって。色々な話題が飛び交う、非常に幸せな時間となりました。


 ですが――。


 その最中に。雰囲気が180度変わってしまう出来事が、にやってくるのでした。


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