第11話 もうすぐ

「パトリシア。もうすぐ、だな」

「はい、お父様。もうすぐ、ですね」


 いくつもの街を越え、国境を越えて、再び多数の街を越えて。ようやく私達の視界に、ブロンシュ公爵家邸が映る範囲までやってまいりました。


 ハレミット子爵家邸がゆうに3つは収まってしまう程の土地に建つ、3階で構成された大きな大きな建物。

 ――小さなお城――。

 そんな表現が適切な、煌びやかさと『歴史』が同居する邸宅。そちらが、テオドール様のお屋敷でした。


「噂には聞いていたけれど、想像以上だわ。同じ『貴族』で括られているけれど、まるで別物。違う世界だわ」

「王家の血も流れる、筆頭公爵家、だからな。何もかもが雲の上の存在、我々と比較する事さえも、おこがましい程だよ」


 お父様とお母様、私自身も。テオドール様という方の存在を再認識し、そして同時に、尊敬の念が更に大きくなります。


 私はこの身で経験していて、よく分かります。

 高い地位を持つ人ほど、その力を理不尽な形で使いたがる傾向があります。格下を見下したり、振り回したり、愉しみとしたりする傾向にあります。


 ですがテオドール様にそんな面は少しもなく、それどころか――。私財を使い、積極的に慈善活動も行われているそうです。

『世の中には、色々な人がいる』。それは理解していたことですが、それでも。こんな方が実在してるのだとは、思いもしませんでした。


「…………パトリシア。素敵な方とお会いできたな」「…………パトリシア。素敵な方と、お会いできたわね」

「はい。改めて、そう感じております」


 今日も胸元にある、ペンダントトップ。宝物のお守りに触れ、そうしていると、大きな門の前に着きました。

 この奥には、テオドール様、そして当主様がいらっしゃる。……ついに、ご挨拶の時となりました。

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