第10話 明日の準備
「あなた。どうかしら?」
「お、お父様。い、いかがでしょうか?」
テオドール様がいらっしゃった日から、4日後の午前中。私はお母様と共に1階にある執務室を訪れ、
「試行錯誤を重ねること、52回。ついに、過去最高のパトリシアが誕生したの」
「ぉぉ……っ。うむ、うむ……っ。実に素晴らしい……っ。美しいぞ、パトリシア……っっ!」
かつてお母様が大事な場面でのみ使用していた、白のドレス。耳にはお母様1番のお気に入りの、サファイヤのイヤリング。お母様の手によってゆるいウェーブを施された、髪。
それらを目視するや、大きな拍手が上がりました。
「パトリシアの良さを引き出している……っ。うむ、うむうむ……っ。これに勝る組み合わせはないな……!」
「ええ。パトリシアが頑張ってくれたから、理想にたどり着けたわ」
「頑張ってくださったのは、お母様ですよ。カロルお母様、ありがとうございました」
私のお顔は、こんな状態になっていますので。お店を伺う事はできませんし、皆さん触ろうとはしません――お屋敷に来ていただこうとしても、あれこれ理由をつけて断られてしまいます。
そのためドレスなどの種類は、限られていたのですが。何度も何度も頭を使ってくださって、この姿が実現していたのです。
「この姿をテオドール様やブロンシュ卿にお見せする時が、実に楽しみだ。なあカロル」
「そうね、あなた。あの方は――あの方々は、違う方々ですもの。この子の魅力を再認識していただけるはずだわ」
お父様とお母様はお顔を見合わせて、満面の笑みを浮かべます。
ヤニックお父様と、カロルお母様。お二人は本当にお優しい人達でして、
『くそ……っ。くそ……っっ! パトリシアに、なにもしてやれないなんて……っっ。こんな自分が情けない……!!』
『……ごめんなさいね、パトリシア……。…………神様、なぜあの子にこのような事をなさるのですか……? あの子が、なにをしたと言うのですか……!? 元の状態に戻せないのであれば、せめて……っ。この私が全てを引き受ける事をお許しください……!!』
私がいないところでは、いつも涙してくださっていました。
そんなお父様とお母様が、こうして心からの笑みを浮かべることができている。それが――それも、ですね。嬉しくて嬉しくて、自然と涙が零れてきます。
((テオドール様。あの時見つけてくださって、ありがとうございます。貴方様のおかげで、私の人生は変わりました))
喜び合う、お父様とお母様。そして、鏡の中にいる、明るくなっている自分。
それらを見つめながら感謝を告げて、もう一つ。早くお伝えしたいと感じているものを、一足先に心の中でお伝えして――。
やがて私達は馬車に乗り込み、隣国――ブロンシュ公爵家邸を目指したのでした。
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