第7話 闇と、光 俯瞰視点&パトリシア視点

で、一つだけで止めておいてあげたのに。お前が悪いんですわよ?」


 白を基調とした、広々とした私室。えりすぐりの家具が配置された優雅な空間、その中央。豪華な照明の真下では、1人の少女がほくそ笑んでいました。


「苦しいでしょう? 怖いでしょう? 苦しかったでしょう? 怖かったでしょう? でもね、気を失って『はい終わり』ではないの。体調不良も、ず~っと付き纏っちゃうのよ」


 窓の外を――ハレミット邸が建つ方角を見やり、再度ニヤリ。悪魔のごとき邪悪な笑みを浮かべ、室内には軽快な口笛の音が響いたのでした。


「ず~っと原因不明の発熱が続く女なんかと、一緒にいる人はいない。テオドール様との縁は、もうじきお仕舞いよぉ」



 〇〇



「…………あ、れ……? 私は…………。どうなって――きゃああああっ!?」


 気が付いた私は、意識が鮮明になるや絶叫してしまいました。

 なぜならば……。私は薄暗い奇妙な場所で仰向けになっていて、体中を無数のどす黒い手が掴んでいたからです。


「いや……っ! いやぁぁ……っ!! 離してっ!! 離してくださいっっつ!!」


 全身を震わせながらも、必死に体を動かします。でも、それらはビクともしてくれず……。

 それどころか……。私を押さえつける力が、強くなりました……。


『『『『『クルシメ……。クルシメ……。モット、クルシメ……』』』』』

「ひぃっ! ぁ、ぁぁ……。い、や……。やめ、て……。や、めて……」

『『『『『ケケケケケ。クルシンデル。タノシイ。タノシイ。ヒヒヒヒヒヒヒヒヒ』』』』』


 無数の手は喋り出し、気味の悪い声で笑い出します。

 それらが、余計に恐怖を生んで……。


「いやぁああああああああああああああ!! いやっ!! いやぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 私は大粒の涙を流しながら、泣き叫びます。


「やめてぇっ!! やめてくださいっっ!! お願いしますっっ!! お願いしますっっ!!」

『『『『『グヒヒヒヒ。モット。モット。モットモット。ミセロ。キカセロ』』』』』


 無数の手は、私が怯える姿を楽しんでいます。だからこれは逆効果、と分かっているのですが……。夥しい恐怖が、止めることを許してくれません……。


「いやぁっ!! いやぁっ!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『『『『『サイコウ。シコウ。モットナケ。ワメケ』』』』』」


 従いたくないけど、従わなくてはならなくって……。私は、どんどんと……。絶望の海へと、沈んでいって――


『『『『『『『イギィ!?』』』』』


 沈み切る、寸前のことでした。突如無数の手達がうめき声をあげ、次々と苦しみながら消え始めたのです。


『『『『『『ギェエエエエエ!? コノヒカリ! ナンダ!? ナンダ!?』』』』』

「…………ひか、り? どこに――ぁ。私の右手が、光っています……」


 いつの間にか、右の手が真っ白に輝いて。清らかで、温かで、なぜか大好きと感じる光。それは、とめどなく大きくなっていって――


 やがては黒に満ちていた空間全てを、白で塗り替えてしまったのでした――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る