第6話 異変と、不穏な影
「だ、だめ、です……。足、が……。うごいて、くれな――」
「パトリシア様っ!」
真後ろへと倒れていた、私。そんな体を二つの腕が受け止めてくださり、私は転倒せずに済みました。
「……テオドール、さま……。ありがとう、ござい、ます……。ごめん、なさ、い……」
「そういった事は一切、お気になさらないでください。それよりも、パトリシア様。こういった現象は、よくおありなのですか?」
「い、え。初めて、です……。こんな出来事は、一度もありませんでした……」
私の身に起きてきた異変は、顔のコブのみ。『健康面に問題はないようです』と先生は仰られていましたし、先週の検査――定期的な検査でも、どこもの異常がありませんでしたし。
このようになってしまった経験は、一度もありません。
「力がまったく、入りません、し……。変、です……。さっきまでは、なんともなかった、のに……。全身が、熱い、です……」
「お顔の色は、通常通りですよ。恐らく突然立ち上がったことで立ち眩みが発生し、その狼狽による興奮の影響なのでしょう」(この顔色と熱さ、38度はゆうに超えているはず……。僅か数十秒で、こんなにも発熱するだなんて……っ。どうなっているんだ……!?)
そう、なのですね……。よかった……。
押し寄せてきていた不安は……。テオドール様の微笑みによって、すぅっと消え去ってしまいました……。
(……考えている場合じゃないな。ハレミット卿をお呼びして、体を冷やさないと)「パトリシア様。実は僕にも経験があるのですが、こういった場合はゆっくり休むと治るのですよ。ベッドにお連れしますね」
「…………ぁ。………………ま、す……」
体が苦しくて、瞼が勝手に降りてきてしまいました。自分の意思とは関係なく、意識が離れてゆきます。
ですが目の前にはテオドール様がいてくださっていて、そんな方の腕とお胸に包まれています。そのため引き続き、恐怖心は少しもありません。
私は最後の力を振り絞って、感謝の気持ちを伝え……。安心して、意識を手放したのでした――。
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