第5話 はじめての2人きり パトリシア視点(2)

「そうだったのですか。ガーベラがお好きなのですね」

「花びらの形と香りが好きで、小さな頃からずっと大好きなお花なんです。テオドール様は、お花はお好きですか?」

「ええ、好きですよ。僕はソレは、ラベンダーですね。祖国にはいくつもラベンダー畑がありまして、そこはお気に入りの場所となっています」


「僕の、趣味ですか? 夜空を眺めること――星の観察ですね。澄んだ夜空に浮かぶ星座を眺めている時間が好きでして、幼少期は部屋から一晩中見上げている時がありました」

「一晩中、本当にお好きなのですね。お気に入りの星座は、ございますか?」

「サソリ座、ですね。名前も由来も物騒ではあるのですが、その中心となっているアンタレス。黒の中で輝くその赤が、非常に美しいのですよ」

「サソリ座、私も気になってきました。……確か星座は、一年中はお空に浮かんでいないのですよね? サソリ座は、ええと…………」

「夏、ですね。6月から8月がよく見る時期となっておりまして、現在がちょうどよいタイミングとなっていますよ」

「今日は7月9日、そうですね……っ。私は星座に詳しくはないのですが、簡単に見つけられるものなのでしょうか?」

「サソリ座は比較的見つけやすい星座ですが、初めての方は多少苦労されると思いますね。よろしければ今度、僕がご案内いたしましょうか?」

「えっ!? よ、よろしいのですか……!?」

「勿論です。星座好きとしては魅力を知っていただきたいですし、なにより。パトリシア様と夜空を見上げる、それは非常に嬉しいイベントですので」

「テオドール様……っ。で、では、お言葉に甘えさせていただきます」



 好きなお花のお話をしたり、御趣味を伺ってお約束までしていただけたり。それらは本当に、楽しくって。2時間半近くもお喋りしていたのに、たった数分だと感じるほどに瞬く間に時が流れてゆきました。


「楽しいことが起きていると、こんなにも時の流れが早くなるのですね。パトリシア様、素晴らしい時間をありがとうございました」

「かけ時計を見て、ビックリしてしまいました。テオドール様、素敵なお時間をくださり、ありがとうございます」


 テオドール様は「名残惜しいですが」と微苦笑を浮かべながら立ち上がられ、私も続いて立ち上がります。

 テオドール様は次期公爵家当主様で、経験を積むべく一部公務の代行をされていました。ですのでブロンシュ邸に戻り、そちらに備えた準備をしなければならないそうです。


「次にお会いできるのは、5日後ですね。お待ちしております」

「はい、伺わせていただきます。5日後は大事なご挨拶があって、大きな緊張があったのですが――。テオドール様にまたお会いできる日でもありますので、そんな緊張感を楽しみという感情が、上書きし始めています」

「ふふ、それはよかった。お役に立てて――っ!? パトリシア様っ!?」


 柔らかく下がっていたテオドール様の瞳が、突然見開かれました。

 ??? 急に、どうされ――


「あ、れ……?」


 体に……。力が、入らない……。

 どう、なって――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る