第5話 はじめての2人きり パトリシア視点(1)

「テオドール様。どうぞ、アールグレイでございます」

「ありがとうございます、いただきますね。…………うん、美味しい。ベルガモットの風味が、ふわりと鼻孔をくすぐります」


 私のお部屋の、中央――丸いテーブルの前にあるイスに、ご案内した後。ここに来る前に淹れた紅茶をお出ししたら、優しい笑顔が帰ってきました。


「……………………」

「? パトリシア様? どうされたのですか?」

「っ。突然黙ってしまいすみません。テオドール様にそう仰っていただけたことが、とても嬉しかったのです……っ」


 ――私、知りませんでした――。


 好きな方に褒めてもらえる。それはこんなにも、おもわずボーっとなってしまうほどに、幸せな気持ちになるのですね。


「テオドール様。そしてこちらは、今朝私が焼いたクッキーです。久し振りですので、美味しくはないかもしれませんが……。よろしければ――あっ!?」


 クッキーを小皿に取り分けお出ししようとしていたら、お皿ごと床に落としてしまいました。

 私ってば……っ。嬉しくなったことで気が早ってしまい、うっかり手が滑ってしまいました……。


「ごっ、ごめんなさいすぐ拾いますっ。新しいクッキーをご用意致しま――」

「そちらは不要ですよ。こちらをいただきますので」


 っっ。テオドール様はお皿とクッキーをひょいと拾い上げ、ぱくり。落ちてしまった5枚は、お口の中に消えてしまいました。


「えっ……。あ、あの……っ。どう、して……」

「貴女が、一生懸命作ってくださったものですからね。一つたりとも無駄にできませんよ」


 迷わず、そう仰られて――。心からの笑顔と、「こちらも美味しいですよ」というお言葉をいただきました。

 この方は……。本当に、お優しい方です……っ。


「プレーンもココナッツ入りの方も、どちらも気に入っています。久し振りと仰っていたのに、こんなにもお上手ということは。お菓子作りが趣味だったのですか?」

「はい、そうなんです。初めてのお茶会に持って行ったら褒めていただけて、それが切っ掛けで作るようになりました」


 でも……。そのお茶会から追い出されて、そうした影響で――追い出された際の出来事を思い出してしまうので、お菓子作りからも遠ざかってしまっていました。

 でも、でも。どうしても手作りをお出ししたくて再挑戦して、こうして褒めていただけたので。また作りたいと、思っています。


「パトリシア様について、一つ詳しくなれました。よろしければ今日は、他の貴女も教えていただけますか?」

「はい……っ。私も、知らないテオドール様を知りたいですっ。教えてください」


 私達は笑い合って、頷き合って。好きな人をどんどんと知ってゆくという、素敵な時間が幕を開けたのでした……っ。

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