第4話 来訪 パトリシア視点

「ハレミット卿、カロル様、そして、パトリシア様。お話しできることを、非常に嬉しく思います」


 3日後の、午後3時過ぎ。予定より5分遅れて到着された――この国・エリルズのマナーに合わせていらっしゃられたテオドール様は、改めて深々と背を曲げられました。

 今私達4人がいる応接室と、先ほど通ってきた場所――エントランスや廊下は、赤やピンク色をした薔薇の造花でかなり派手に飾り付けられています。

 こちらはこの国では、大きな歓迎を意を示す際に行われるもの。テオドール様はそういった文化も御存じで、目にされた瞬間、グリーンの瞳は柔らかく細まっていました。


「……ブロンシュ様、早々に申し訳ございません。ここからは当主としてはなく、父として振る舞うことをお許しください」


 対面のソファーで行われたお辞儀に、同様の動作を返していたお父様。そんなお父様はお顔を上げると改めて頭を下げ、そうすると厳格さを含んでいた瞳が急激に潤み始めました。


「そちらは、我々の台詞でございます……っ。パトリシアの……っ。大事な娘の笑顔を取り戻してくださり、ありがとうございます……!」

「親バカと言われるでしょうが、この子はまっすぐに育ってくれまして……っ。けれど、世の中は辛辣で……。異変の上に、様々な悪評や視線を注がれる羽目になって……。真の笑みを、失ってしまっておりました……」

「言わずもがな我々も努力を重ねましたが、力及ばず……。…………愛娘を救ってくださり、くださり、まことにありがとうございます……!!」


 お父様とお母様は揃って頭を下げてくださり、そんなお二人に挟まれている私も続き、そのあとは左右に対して頭を下げました。

 家族がヤニックお父様とカロルお母様でなければ、絶望して自ら命を絶ってしまう未来もありました。お父様、お母様。今までずっと、護ってくださりありがとうございます……っ。


「あの夜パトリシア様とお見掛けしたのは偶然ですが、それ以降は必然ですよ。パトリシア様には一度お伝えしましたが、そこにいらっしゃったのは澄んだ瞳の持ち主ですから。見逃すはずがなく、躊躇うはずもありません」


 テオドール様は品よくクスリと口元緩められ、「ですので」と続けられました。


「父と母――当主夫妻も、この関係を歓迎しております。父は『素晴らしい人が恋人になってくれた』母は『このまま娘になって欲しい』と、上機嫌でしたよ」

「ぉぉっ、そうでございますか……っ。この上なくありがたいことでございます……!!」


 親子で意見が異なるのは当たり前――。パトリシアが傷つく可能性は――。当主様は立派な御方だと評判だが、胸の内はどうなのだろうか――。と、お父様もお母様も心配してくださっていましたので。評判通りの方々なのだと分かり、安堵の息が自然と2つ零れました。


「そのため当主夫妻は、早くお会いしたいと口にしておりまして。ハレミット卿の御都合が悪いならこちらからと、珍しく張り切っております」

「そっ、そんな滅相もございませんっ。実を言いますと、我々も多々お伝えしたい事がございましてっ。いつでも発てる準備はできておりますっ!」


 なので一家でブロンシュ邸を伺う日は、両家がたっぷりと時間を取れる5日後の正午とあっさりと決定。そしてその後あったいくつかのお話も簡単に決まり、相談が必要なものはなくなりました。

 そのため…………いよいよ、です。テオドール様と共に2階へと上がり、私のお部屋でお喋りとお茶を楽しむことになりました……っ。

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