第2話 お聞きしたかったこと パトリシア視点(3)
「なので仮に、貴女の本来の姿が見えていなかったとしても。僕はダンスを申し込んでいたのですよ」
丁寧に説明をしてくださった、ブロンシュ様。そんなブロンシュ様は先ほど踊った場所を一瞥され、口元を緩めてくださいました。
そう、だったのですね。そう、なのですね……っ。
「……こんなお言葉をいただいたのは、はじめてです……っ。ありがとう、ございます……っ」
「僕は、お礼を言われることは何もしていませんよ。全ては、貴女の心がもたらした、導いてくれた結果なのですから」
また――。ブロンシュ様は嬉し涙が零れてしまうことを仰って、っっ! 溢れた涙をハンカチでそっと拭ってくださったあと、
「ハレミット様。失礼します」
優しく、私のコブに触れられました。
「僕にとってこちらは、素敵な方の一部です。先ほど取らせていただいた、手や足のようなものですよ」
「……ぶろんしゅ、さま……。ぶろんしゅさま……っ」
今まではずっと、奇異な視線を受ける的でした。でも、本音でそう仰っていただけて……っ。
だめ、です……っ。拭いていただいたばかりなのに、またぼろぼろと、涙が零れてきてしまいます。
「ダンスを、踊っていただけだだけでも、しあわせ、なのに……っ。お言葉をいただけて……っ。こんなことまで、行っていただけて……っ。こんなことが、あっても、こんなにしあわせな気持ちになっても……っ。いいの、でしょうか……っ?」
「もちろんですよ。貴女にも当然、その資格があるのですから」
ブロンシュ様は膝を曲げて――目線を合わせて微笑んでくださり、両腕とお胸で私を包んでくださって……っ。だから更に、私は泣いてしまって。
きっと、5分くらいはそうしたのだと思います。
長い時間なのに、でも、ブロンシュ様はずっと付き合ってくださっていて。そんなブロンシュ様は、泣き止んだ――心の中にあった苦しみを吐きだした私の目元をみたび拭ってくださり、そうしたあと姿勢を正されました。
「ハレミット様。改めて、お伝えします。……僕は、貴女に惹かれております。ですのでどうかこのテオドール・ブロンシュとの時間を、
片膝立ちになって告げられた言葉。それは好きになった方から贈られた、嬉しい嬉しいお言葉。
ですので――
「私も……もっと同じ時間を過ごし、もっともっと貴方様のことを知りたいと願っております。ブロンシュ様、ありがとう、ございます……っ。よろしく、お願い致します……っ」
――幸せの感情で体を震わせながら、私はその右手に手を重ねさせていただいたのでした……っ。
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