第2話 お聞きしたかったこと パトリシア&テオドール視点(2)

「ぶ、ブロンシュ様のような方にそう仰っていただけて、こ、光栄でございます。で、ですが……。今の私は…………実際の姿は、こんなひどいものですので――」

「ハレミット様。僕はまったく、そのお姿は気になりませんよ」


 驚きつつ戸惑っていたら、またでした。更に驚く言葉が、やって来ました。

 容姿は……。気に、ならない……?


「僕は、外見に重きをおいてはいないのですよ。これからその理由を説明させてもらいますね」


 すぐに本音と分かる、真摯な瞳。ブロンシュ様はそんなものを注いでくださり、やがてお口が動き始めたのでした――。



 〇〇



 僕には物心ついた時から、不思議で奇妙な特技があった。年齢性別、はては人でも動物でも種族もも関係ない。とにかく相手の『目』を見れば、その生き物の性質を感じ取ることができたのだ。


 瞳が澄んでいるほどに、良い心を持った人。

 瞳が濁っているほどに、悪い心を持った人。


 こういった形で一目で安全か危険かを判断できて、読み間違えることは決してない。この能力(?)によって僕はこれまで何度も、両親や祖父に近づく狡猾な者を――家への伸びようとしていた悪巧みを、事前に阻止してきた。


 そして――。


 そうした経験が、今の『僕』という人間を作っていった。


「テオドール様、お初にお目にかかります。わたくしヴァ―デン侯爵家の長女、ユーリスナと申します」

((…………この人、目がかなり濁ってる。こんなにも良い人そうに見えるのに、平気でライバルを蹴落とせるような人間なんだ……))


「しっ、信じてください! 俺は店の物を盗んだりしてはいません!!」

「嘘つけ!! お前はそういう人間だ!!」

「そうよっ! 性格は顔に出るっていうものっ!!」

((違う、彼の目は澄んでもいないが濁ってもいない。常識的なモラルを持ち合わせた、悪人顔の男性だ))「…………失礼、ブロンシュ公爵家のテオドールとお申します。僕はこの方の言葉を信じておりまして、同時刻他に怪しい物がいなかったか調べてみましょう」


 などなど。

 美しかったり善良な顔をしていたりしても、悪魔のような心を持った人が沢山いた。罪人と見まごう程の人相をしていても、手本にしたい程に立派な人が沢山いた。

 だから――。僕はやがて、


((容姿は、まったく意味のないもの))


 強く、そう感じるようになった。

 どんなに美しいと称えられていても、心が汚ければ醜く映る。どんなに醜いと蔑まれていても、心が綺麗ならば美しく見える。


 ――僕にとって外見は、飾りにすぎない――。





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