三 猫漱石と路地裏散歩
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「
「おばあちゃん、よかったぁ……」
昨日の夜と同じく、まだいろいろと
「あんた、店に行ってくれたんだろう? どうだった?
「大丈夫。鍵もかかってたし、特に変わったことはなかったよ」
祖母は心底ホッとした様子だった。
「あ、
「今日来たよ。トーストセット出したらまずいって言われちゃった」
とたん、祖母はぱっと顔を輝かせた。
「開けて、くれたのかい!」
その喜びようを見て、亜紀は昨日の祖母の言葉の意図は正しかったのだと知る。
(あぁ、帰らなくって、良かった……)
もし店を開けずに帰っていたら、祖母はどれだけがっかりしただろう。病状が一気に悪化していてもおかしくない。
「そうかいそうかい! もしかして、やる気になってくれたのかい!? あぁ、神田さんはシュガートーストが好きなんだけど、糖質制限してるからパンにかける砂糖は別でね……」
祖母が一人でどんどん話を膨らませて、亜紀は慌てる。興奮させるのもまずい気がした。それにぬか喜びになる可能性だってあるのだ。
「え、えっと、でもまだ何にもわからないし、
そう言って落ち着かせようとするが、祖母は「いいんだよ。亜紀の好きなようにすれば。良かったねぇ、これで一安心だよ」とホッとしたように目をつぶった。
「おばあちゃん? ちょっと、大丈夫?」
不安になって周囲を見回すと、ちょうど看護師が廊下を通りかかった。
「
すぐに処置が始まり、じゃまになってはいけないと亜紀は外に出ようとする。だが祖母が「亜紀」と呼び止めた。
亜紀はドアのところで振り返る。祖母はすがるような目をして言った。
「さつきって子は来なかったかい?」
「さつき?」
「もし来たら注意しな。いい子に見えるけど、見た目に絶対
祖母は早口で言うと、看護師さんに「はいはい、血圧も測りますよ」と会話を遮られる。
亜紀の頭の中にはクエスチョンマークが飛び交う。
(さつきさん? ぼけっとしてて世界一安全そうな子?)
ひとまずそんな人に心当たりはなかったが、安心させるために
「うん、気をつけるね」
部屋を出ると、もう一度記憶を
(怪しい人……あやしすぎる猫なら来たけど……)
亜紀にとっては
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