二 4
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娘さんとななみちゃんにもパンを渡すと、彼女たちは同じ顔で目を丸くする。
「美味しい……こんなに美味しいんじゃあ、食べたいって言ってもしょうがないなあ」
娘さんが
「違うんです。このトーストはいつもは出してないんですよ。いつもはトースターで焼いたごく普通のパンのはずです」
「じゃあ……どうして?」
神田に視線が集中し、皆がはっと息を呑んだ。神田がハラハラと涙を流していた。
亜紀も寒月も漱石も、そして娘さんやななみちゃんもが静かに見守る中、神田はしばし泣いていた。やがて、ポツリと言った。
「どうやらわしは、早くあいつのところに行きたかったらしい」
娘さんが細くため息を吐いた。
「お母さんがいなくなって、もう一年だよ」
「まだ一年だ。むしろ、日に日に
神田は
「……どうして先にいっちまうんだ」
男の人は残されると弱ると聞いていたけれど、それを実感する。一人残されてもたくましい祖母とは大違いだ。
しんみりとした雰囲気に亜紀は鼻の奥がつんとしてきて焦ってしまう。やがて娘さんがしみじみと言った。
「……そっかあ、突き詰めると原因はお母さん、かぁ……。それはどうしようもないなあ」
だが、すぐに娘さんは笑って続けた。
「でもダメだよ。だって私、お父さんに長生きしてもらいたいもん。お母さんにもお父さんをお願いってたのまれてるんだよ。私が怒られちゃうじゃない」
「ななみもだよ! おじいちゃん、ちゃんと長生きして!」
神田はぐっと詰まる。それを見て娘さんはななみちゃんと顔を見合わせてふふと笑う。
「だけど、そうねぇ。お父さんの『好きなもの』もたまにはいいかな。お母さんもたまに『今日だけですよ』って、お父さんの好物出してあげてたし。じゃあ……、今日はラーメンと
献立を考え始める娘さんたちの様子に、神田が「ラーメン!?」とパッと顔を輝かせる。
案外お子様な舌に、亜紀は
なんだろう、この可愛いおじいちゃん! 可愛い親子!
すると神田は慌てたように顔を引き締め、一つ
「じゃ、じゃあ。そろそろ帰ることにする」
「ありがとうございました」
亜紀が頭を下げて見送ると、神田は恥ずかしそうに笑った。
「シュガートースト、ハルさんのと同じくらい──いや、それ以上かな?
「はい。お待ちしております!」
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