第12話 6日間
神の蛹が大地に降り立ってから4日目。
「ホントにいつになったら出てくんだ……?」
早くもカメリアは痺れを切らして苛立っていた。
カメリアが観察している限り、神の蛹は最初に見た時とさしたる変化はない。
今日も天窓から燦燦と降り注ぐ朝の柔らかい日差しを銀の膜が反射して、レオナルドの宝箱を一層煌びやかに輝かせていた。
カメリアの散漫な観察力では見つけられていなかったが、銀の水晶の頂点に入った亀裂は深さを増していたのだが。
(こんな調子じゃ、中の子と話す前にレオナルドが神の蛹を売っちまう)
最近、カメリアはそればかりを心配していた。
早く目を覚ましてほしいという気持ちは銀の水晶を見つめるたびに大きくなるが、彼の目には水晶が期待に応える様子が見えていなかった。
神の蛹が銀の膜に覆われているというのが問題なのだろう。
それさえなければ、カメリアは今頃、壊れつつある神の蛹を見て喜んでいただろうに。
昨日からレオナルドが姿を見せないことが焦りに拍車をかけていた。
もしやレオナルドは既に人狩りのもとに赴いて、神の蛹とカメリアとの物々交換を申し出てしまったのではないか?
そんな焦りが、彼の心をむしばんで居た。
(一度だけでも声を聞いてみたい)
彼女が神と呼ばれる存在だからなのだろうか。
カメリアはこれまで、何かに執着したことがなかった。
彼の中では生きることが何より優先で、そして生きることとは体を売って、糧を得ることだ。
お金に執着しようにも、金など手に入れたことがない。
他人に執着しようにも、同じ境遇の人々は心身を壊して次々死んでいく。
では生に執着しているのでは?と、聞かれればそれもしていなかった。
カメリアは人狩りに会う前の本当に幼いころに愛する母から与えられた言葉を、今もお守りのように持っている。
「ひたむきに生きた人間は、いつか死の海の向こうで愛する人に会える」
死の海とは、世界の果てだ。
この世界セフィロトは円盤状に広がっている。月のように丸くはないのだ。
一つしかない大陸の四方を囲むのが海だ。
海の端には虚空があった。その場所にたどり着いた海水は、全てが遥か下方の世界に流れ去っていく。
セフィロトという世界の下方には何があるか、誰も知らない。
しかし様々な憶測や想像はされていた。
どこかの民族では、そこに地獄があるのだと。
またどこかの地域では、そこにまた世界があるのだと。
人々はその世界の果てを恐れて、死の海と呼んでいた。
カメリアが生まれた小さな氏族の中では、死の海の向こうには死者たちの世界が広がっていた。
悪人や、自殺をした情けない臆病者の魂は、死んだ後に体が朽ちていく苦しみに苛まれながらいつしか消えていくのだと、
正しく生きた善良な人間の魂だけが、死の海を越えて死者たちの世界で、真の神の御許で苦しみのない第二の人生を歩める。
確かそんな話だった。
しかしカメリアは、別に氏族の間でまことしやかに語られていたそれを信じているわけではない。
ただ、母の言葉を信じていた。
「ひたむきに生きた人間は、いつか死の海の向こうで愛する人に会えるのよ」
「だからきっと、生きることあきらめないで」
人狩りに捕まった人々が入れられる、死体の転がった乱雑な牢の中では、彼女からその言葉を聞くことが本当に増えた。
「生きてればいいことがあるなんて言わないわ。これから貴方がどんな生き方を強いられるか、私にはわからないもの。」
カメリアと同じ美しい金の髪は、血となにかべた付いたもので汚れていた。
横たわる彼女の目は大量の目やにがこびりついて開かない。
だが瞼の下の瞳は白く濁っていることを知っている。もう失明していた。
「でもこの言葉を信じて。ひたむきに生きた人間は、いつか死の海の向こうで愛する人に会えるのよ。きっと私たち、あの海の向こうでまた会えるから。」
「あなたがいつかおじいちゃんになった姿で、私に会いに来るのが楽しみなの。」
「つらいときは、このリボンを掴みなさい」
そう言って渡されたのは、リボンというには貧相な、母の髪を結んでいた赤い紐だった。
それくらいしか渡せるものがなかったのだ。
「私のことを忘れても、生きることを諦めないで。***」
いつものようにそう言った母は、次の日には息を引き取った。
最期に彼女はカメリアの名前を呼んだ。
〈カメリア〉という、男娼をするために人狩りに付けられた女のような名前ではなく、厳格だった父がつけた、本当の自分の名前。
無数の虱とネズミが美しかった母の体を食い破っていく恐怖に耐えながら、体を売って働く不快感に耐えながら、その言葉だけを信じてカメリアは生きた。
苦しいときは、自分の髪を結ぶ形見の紐をみつめた。
体を暴かれるときはいつも、触られないようにその赤いひもを掌の中に隠して祈っていた。
執着していたのではない。母の言葉を鵜呑みにしているのでもない。
ただ、母が死の間際に縋りついたもしもの幻想を守りたかった。
(それにしても、綺麗だよな)
カメリアはベットから降りて、今日も神の蛹の銀の膜を掻き分けると、また薄紅色の水晶の中に、可憐な少女の姿が現れた。
何度見ても見惚れるほどの美しさだった。
ほぅ…とため息を漏らしてから気が付く。
「ていうかこの子全裸じゃんか!」
今更すぎる驚愕とともに目を逸らした。
今まで自分は歳の近い裸の少女をまじまじと見ていたのだ。なんという無作法だろうか。
芸術のような存在感につい我を忘れていた。
裸婦の絵画を見ているような純粋な心持ちだったのだが、少女にもし意識があったら、蛹からでた後はなによりも先にカメリアの頬をひっぱたくに違いない。
寧ろそれで許されるなら殴ってほしいくらいだ。
(服、服を用意しよう!なるべく露出のないやつ!)
カメリアはベットのそばに置いてある自分用の衣装棚に駆け寄った。
カメリアは基本踊り子のような露出の高い女ものの服を着ている。
首と胸の下までを隠す黒のクロックトップと、袖のひらひらしたレースのつけ袖、歩くと下半身のシルエットが透けて見えるハーレム・パンツに身を包んでいた。
神の蛹の中の彼女に、こんな服は似合うだろうか?
いや、似合ったとしても着たくはないだろう。
この時代、大抵の女性は肌の露出を好まない。
カメリアのように臍の辺りを丸出しにした格好をするのは水商売をしている女性くらいだ。
しかも曲がりなりにも男である自分の御下がりを喜ぶわけがなかった。
「だからって、いつ生まれるかわからないのに服を用意していないのはヤバいよな……。」
これは取り敢えずだからとカメリアは、自分の服の中でも比較的露出の少ないデザインの服を上下用意して、銀の水晶の前に置いた。
「これしかないから、まだ生まれないでくれよ」
とにかく早く彼女の服を用意しなくては。
カメリアの焦りは先程と全く別種のものに代わっていた。
*****
5日目、
いつものように天蓋のベットから神の蛹を見つめていたカメリアは決意した。
何としてでもこの、名前も知らない彼女の服を用意しようと。
差し当って必要になるのは布だ。できるだけ丈夫なものがあればいいが。
彼は自分の足首を見つめてさする。
枷は外れていたが、カメリアの足は人狩りに捕まった時点で腱を斬られていた。
ろくな治療もされなかったので、今でも彼は足を引きずって歩いている。
この足さえ役に立ったなら、いつだって逃げてやったのに。
人狩りからも、レオナルドからも。
ぼやきながら布の入手手段について頭を悩ませる。
このような足だから、外に出てどこかから服を買ってくることができないのだ。
幸い、彼は裁縫に自信があった。人狩りの牢に入れられていた時は何かと布不足だったので、針一本と少ない布で、年下の子たちの服を作ってやったものである。
今でもその習慣は続いていた。
カメリアの力でわずかに待遇の良くなった捕虜たちの、特に少女たちに、時間を見つけては服を縫うことがあった。
黄ばんだ白一色の布でも彼女たちは、少し手間をかけてフリルを付けてやれば頬を染めて喜んでくれる。
それが嬉しくて何着も作ったが、少ししたら彼女たちは、人狩りの得意先だったペドフィリアの餌食となり、内臓を破られて死んでしまった。
それからは何となく服作りからは遠ざかていたのだが、神である彼女ならきっとどこに行っても丁重に扱われるに違いない。
無体を働かれて命を落とすことがなさそうな年下の子供は、カメリアにとって貴重で大切だ。
ここは腕の見せ所だろうとは思うのだが、そもそも縫う布がなくては始まらない。
ここにあるのはベットシーツくらいだが、流石にレオナルドと自分の汗や体液がしみ込んだこれを使うのはあり得ない。
カメリアは大きく豪奢な装飾の施された扉を全体重をかけて押した。
この扉がほとほと重く、足の古傷を苛むのである。
軋んだ音を立てて扉が開くと、カメリアはつんのめりながら外に出た。
目の前には通路。部屋が数か所あるが、ここは確かレオナルドの使用人たちの部屋だ。
レオナルドの家は、元はと言えば現ホド皇帝国の騎士の家系だったのだ。
70年前に女神アドラメレクが誕生した際、ホドの男性の権力をがた落ちさせてしまった。政治や軍事への発言力を突然奪ってしまったのである。
もともとは男尊女卑の社会だった現ホド皇帝国、元ケムダー皇帝国は、それに対しもちろん暴動を起こした。
しかしアドラメレクと彼女を信奉する女たちが強すぎたのである。
何度暴動を起こしても殲滅させられるだけ。ケムダー皇帝国は目を瞠る程の速さで消耗した。
そして人口の男女比が8:2くらいになり、最早残った女性たちで国を立て直すしかなくなった。
アドラメレクの意向に従い、生き残った男性貴族はもちろん、男性騎士まで国外においやってようやく国が平定したのが20年前の出来事だ。
アドラメレクとはなんて破天荒な神なのか。男性嫌いにしてもやり過ぎる。と、近隣の国々の男たちは恐怖した。
そしてその時に国外……このアィーアツブスに追いやられた男性騎士がレオナルドの父だった。
父は名高い騎士だったらしく残された財も多い。
その中の一つが使用人たちだった。
しかし今では彼らは旅人の追いはぎや、小さな村からの金品の強奪が仕事だった。
レオナルドが彼の父が残した財産を、ほとんど私欲の為に浪費してしまっていたからだ。
彼自身が使用人たちに村の襲撃を命令していた。
アィーアツブスでは彼の存在を知る者はみんな口をそろえてこう言った。
〈強盗騎士レオナルド〉
そんな彼の私邸はかなり広く、地下牢なんてものまであった。
カメリアも全てを歩きつくしたつもりはない。まだまだ知らない場所がたくさんある。
それもこれもこの頼りない足と、天窓の部屋から出ることをレオナルドが良く思わないからだ。
使用人たちにはあまりカメリアを出歩かせないように言ってあるようで、見逃してくれるのは不真面目な人だけだった。
動きにくい足を引きずって、どこかに良い布は無いかと探しまわる。
(そうだ、リネン室!)
カメリアに天啓が降りた。ここは宿などではないが、確かどこかにリネン室があったはずだ。
リネン室と言えばシーツやタオルなどのイメージだが、もしかしたら手芸用の生地なども一緒においているのではないか?
結論から言うと、カメリアに降りた天啓は当たっていた。
「よっしゃぁ!リネンにウール、サテンもあるじゃん。これなら何とかなりそうだ!」
案外狭かったリネン室の片隅に埃を被って、目的のものはそこにあった。
用意できた生地は大きな紙袋に収まってしまったが、それでも子供一人分の服を作れるくらいはある。
「ウールは要らねぇかな?ここら辺じゃ暑いし。あと神っぽくないし」
ウール以外の生地を全部抱えて、意気揚々と部屋から一歩踏み出した時だった。
「お前は男娼の……!ここで何をしている!?」
聞き覚えのない男の声がして、「げ、」とカメリアが漏らした。
声の主の男が乱暴にカメリアの肩を掴んで生地を取り上げる。
「男娼なんてしてるやつは子供でも違うな!まさか客の家から物を盗むとは」
攻撃的な物言いにカメリアはお前らも強盗してんだろと、心の中で舌打ちをする。
「それ埃被ってましたよ?使わないなら俺が貰ってもいいんじゃない?残ったら返すから。」
「そんな言い分が通るわけがない。旦那様には報告させてもらうからな!」
(それはまずい)と流石のカメリアも血の気が下がる。
気性の荒いレオナルドにばれたらどんな目に合うかわからないのだ。
殺されることはないと思うが、盗みを理由にカメリアの所有権が人狩りからレオナルドに移ったりでもしたら大惨事だった。
それだけは回避したいカメリアは、こういうときの最終手段に出ることにした。
「フン、せいぜい酷くお叱りを……!?」
カメリアは背伸びをして男の唇を塞いだ。
勿論自分の唇で、である。
「んん……っ!」
今しがた会ったばかりの男の口内を暫く蹂躙したカメリアは、口を話すなり腰砕けになってしゃがみ込む男を見下ろしながら、独り言にしては大きな声で呟く。
「あー参ったな。旦那様以外の男に手を出されちまったよ~っと。」
「な!?」
男の混乱した頭でもカメリアがとんでもないことを言ってるのがわかる。
「ふざけ……っ!お前だろうが!」
「でも俺がそう言ったらそうなるし、共犯ってことでいい?」
「……っ!?」
悪びれもせずに言ったカメリアが男の顔に顔を近づけると、花が咲くように笑った。
「許してくれたらも一回するけど」
「……、くそ!」
余りにもあっさり陥落した男に内心ほくそ笑む。
これくらいならもう何が相手でも抵抗感はない。
どうせ汚れた体なら、汚らしい生き方をしたっていい。
いつからか彼はそう思っていた。
*****
6日目。
昨夜もレオナルドが居なかったおかげで、カメリアは上機嫌だ。
彼はさっそく服を縫い始めていた。
型紙などは必要ない、相手の採寸は目で見ただけで終えていた。
あとは頭に浮かんでいる構想を、限られた素材の中で形にするだけだ。
どうせ作るなら普段使いのできる、動きやすさ重視のワンピースが良いと思うのだ。
それで彼女が神としての威厳を示せるかはわからないが、どうせ手ずから作るなら、何度も使ってもらいたいのが本音だ。
それでも彼女ににじみ出る気品をワンピースで表現するというのは難題だが、とにかく頑張ってみよう。
首元はドレープド・ネックに、袖はフレアスリーブでどうだろう。
彼女にはきっとギャザーのないフリルの方が似合うだろう。
生地は何となくサテンが似合う気がするが、白と赤しかないのが残念だ。
カメリアは完全に集中しきって自分の世界に入っていた。
最早自分の手と道具、そしてまだ名前を知らない彼女しか存在しないようだ。
薄紅色の羊水から出てきた少女が、完成した服を身に纏って歩き出すのが見える。
脹脛までの白いフレアスカートを翻して、こちらを振り向くのが見える。
そんなに鮮明に想像できるのに、表情だけがわからない。
彼女はその服を着て悲しげだろうか?怒るのだろうか、……笑ってくれるだろうか。
自分の意志とは切り離され、勝手に動いている手を見つめながらそんなことを考えていた。
だから、後ろから大きな人影が近づいてくることに気が付かなかったのだ。
「……何をしている?」
「ひ……っ!」
カメリアの体がこわばって、思わず漏れた声に、口を手で押さえた。
聞こえてきたのはレオナルドの声だ。
「……少し驚いてしまいました。お久し振りです、おかえりなさい旦那様」
「何をしているか聞いている」
突然帰ってきた家主は不機嫌だった。
カメリアは逡巡する。
この布に関しては口止めしてあるし、差し入れだと言えばそれで済むが、レオナルドの機嫌が悪い今、何が彼を刺激するのかを慎重に見極めなくてはならなかった。
「……服を、こちらおわす新たな神に、お召し物を捧げようと服を作っておりました。」
「服などいらん」
「……は?」
苛立ち混じりに吐き出されたレオナルドの言葉の意味がわからない。
どう考えても何かしら服は必要だろう。
どんな人間でも生きるには何かを身に纏わなくてはいけない。
神でもきっとそうなはずだ。
それとも、カメリアが手ずから作る必要がないだけで、どこかに用意しているのだろうか?
「しかしいま、彼女には着るものが……」
「この娘をここから出すつもりはない。彼女は美しいからだ。」
「ご、ご冗談……を」
完全にレオナルドの悪い冗談だと思ったが、彼の表情は真剣そのものだった。
「そんなことできませんよ!アィーアツブスの民は皆神の蛹を探しています!永く王不在のこの土地では略奪と殺しがはびこっています!みんな国を作りたがってる!法を求めて最良の統治者を待ってたんだ!」
「しかしこれは私が手に入れた私のものだ!」
レオナルドは神の蛹を指さして叫んだ。
カメリアの鼓膜が怒号で千切れそうになる。
「これは私のものだこれは私のものだ!他の誰にも渡すものか!誰の目にも触れさせるものか!ここにあればいい!この中で生き続ければいい!私が死んでもここからは出さん!お前もだカメリア!この部屋から出すものか!失うものか!」
気が狂ったように頭を振り乱し、レオナルドは叫び続ける。
神の蛹のこの世のものとは思い難い美しさが魔力となって、この男を狂わせてしまったのだろうか?
そう思わせる程にレオナルドの様子は異常だった。
レオナルドは神の蛹の下へ大股で近寄ると、銀の膜を乱暴に振り払う。
「見ろ!この常軌を逸した美しさを!これをたかが布切れごときで隠してしまうなど無粋だ!お前もそう思うだろう、神よ!私だけに微笑む幼い女神よ!」
巨漢はそう叫んだかと思うと今度はぶつぶつと呟き始めた。
「何故だ?何故私があんなにも乞うたのにかかわらずお前はその石の中で縮こまっている?早くこの薄紅色の檻から出てこい。その石膏のような肌を暴きたいのだ。銀の髪を掴んで、ベットに沈むお前の姿を見たいのだ。何故まだそこから出て来ない?何が問題だ?」
カメリアの背筋に走る寒気が強くなるのを感じた。
レオナルドの暴走はこれだけでは終わらないのではないかという予感をひしひしと感じる。
「ああ、わかったぞ!!!」
レオナルドは天に向かって両手を広げ、降りてきた天啓への感謝に震えた。
「そうだそうだ!お前の細腕ではこんな分厚い石の塊は壊せまい!ならばお前の主人である俺が直々に壊してやろう!」
彼は近くにあった装飾用の大斧を神の蛹の前で掲げた。
(まずい!)
カメリアの体が動いていた。
大斧を振り下ろさんとする巨漢の腕にしがみ付く。
「やめろ!無理に壊したら死んじまうかもしれないんだぞ!」
「邪魔をするな!」
レオナルドが腕を振り払うとカメリアは飛ばされてしまった。
ベットの柵に頭を打ち付けて意識が一瞬飛ぶ。
その間に、レオナルドの斧は振り下ろされていた。
酷い破壊音が鳴り響く。
神の蛹は一発では壊れなかった。
何度も何度もレオナルドは斧を振りかざして、つるはしで穴を掘るように罅を大きくしていく。
薄紅色の鉱石の破片が、彼の足元に山のように積もったころ、神の少女は完全に取り出された。
だが、
「何故だ……?何故目覚めない!」
少女が目覚めることは無かった。
思い通りにならない展開に、レオナルドが怒りをさせる。
「起きろ!起きろ!起きろ!目覚めぬなら……!」
彼はどれだけ酷く揺さぶっても、一糸まとわぬ少女が目覚めないと悟ると、彼女の細い首に手をかける。
その時、
「旦那様」
カメリアがレオナルドの背中にピタリと身を寄せた。
「そんな子の事より、私の相手をしてくれませんか?この頃部屋に来てくれないから、寂しかったんです。……今日は、酷くしてください。」
思ってもない事を甘えた声で囁いた。
レオナルドの動きが止まり、ゆっくりと振り向くと、彼はカメリアの腕をつかんで、歩幅の合わない少年をベットまで引きずった。
その夜はカメリアにとって、これまでで一番ひどい時間になった。
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