I will always remember
好きだと、言えずにいた。
「中原……」
「小野! 遊佐は? いつもあんたと一緒にいるじゃん。今日、なんでいないの?」
いい、言わなくていい。尋ねたのは理想通りの答えが欲しかっただけ。けれど、小野の様子を見るに彼は……。
「遊佐は、死んだよ」
「…冗談でしょ」
「俺がそんな悪い冗談を言うと思っているのか」
分かっている。そんなこと言う人じゃあないってことくらい。分かっていたはずだ。
小野はその大きい背中をめぐみに向けて、
「ついてこい」
と低い声で呟いた。
墓地は見捨てられた町のように見える。
一人が死ぬと、一つ墓石が立つ。大きかったり、小さかったり、丸かったり、四角かったり、様々だ。人が死ぬと誰ともなく穴を掘り出して死者を埋め、そして墓石を立てる。そうやって作られた墓が山の裾にも、畑の端にも、河原の崖っぷちにもあった。
その中の一つ、新しい小さな石が積まれただけの墓の前に、女と男が立っていた。
「お前にだけ、墓の場所を教えてなかったのを思い出してな」
「馬鹿が墓で寝てるのね」
そう言うと、めぐみは墓を蹴りつけた。小野にすぐ取り押さえられなければ、もう一撃食らわしていただろう。
「おい、何してる」
「馬鹿が寝てるみたいだからさ。起こしたげようと思って。……ね、一人にしてくれないかな」
「……」
小野は無言でうなずくと、のそりとどこかへ言ってしまった。
「遊佐、いるんでしょ」
『ごめん』
「あたしのそばを離れたりしないんだっけ。あたしが一人になることはないんだよね。それってさ、嘘じゃん」
『ごめん』
「あんたが最後にあたしにしたこと、一生忘れてやらないから」
『ごめん』
「好き、だった」
ポツリ、ポツリ。雨が降る。言葉が零れる。
呼吸をするのは辛い。とてもたくさん泣くと、呼吸をするのは辛いことだと分かった。彼がいなければ分からないことだった。
僕もだよ、と聞こえたのは夢か現か幻か。
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