Way Back Home

ヤチヨリコ

Way Back Home

「僕がどこに行こうと、君のそばを離れたりしない。君が一人になることはないよ」

 呆れた男だ。いかにもキザなセリフ。

 世界最後の人類は七人。その中の二人がめぐみと、この遊佐だった。

 神とはなんとも非合理的だ。生き残りを作るのなら学者やスポーツ選手、政治家なんかのいわゆる人類に益をもたらす人物たちであるべきなのに、現在生存が判明しているのは、占い師、バックパッカー、老いぼれCEO、平凡な女子高生とその兄、男子高生、それから遊佐である。

「そう言っている場合じゃあないわ。それとも、あんたが死んだらあたしの守護霊にでもなるっていうの? そりゃあいいわ。あんたが今日の食料ね」

 めぐみは錆びたナイフを遊佐の首元に突きつけた。

「それ、降ろしてくれないか。仲間内で争ったって仕方がない」

 遊佐は両手をあげて、

「降参だ」

と呟いた。

「こんなもんじゃ、あんたの首を掻っ切るなんて出来やしないよ。当たり前だろ」

「でも、刺されたら痛い。痛いのは避けたい」

「……まったく、あんたってのは大馬鹿野郎だね。そんな甘っちょろい言葉吐くなんて」

 めぐみはつまらなそうにナイフをそこらに投げ捨てた。遊佐はそれを拾う。

「そんなもん持ってたってなんの役にも立たないよ」

「それじゃ、これは君がくれたお守りってことにしておく」

「馬鹿じゃないの」

「必ず、君のもとへ戻ってきます。君の幸せをいつも願っている」

 遊佐は明日、旅に出る。おそらく帰っては来れないだろう。それをめぐみに伝えようとしたが、止めた。彼女にだけは自分のことを生きていると思ってほしかったから。

「それって遺言? あたしに伝えなくても……。っていうか死ぬの?」

「さて、どうでしょう?」

 遊佐は何を考えているのかわからないような薄っぺらい笑みを浮かべた。

 めぐみの黒い瞳に映る姿が大きくなる。鼻先と鼻先が触れ合って、それから――。

 それがめぐみの記憶にある遊佐の最後の姿になった。

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