該当する章:騒動の収束

ガーレット国での出来事 ※ロジー視点

 

「ロジー様、少々よろしいでしょうか」

「? なんでしょうか」

「旦那様がお呼びするようにと」


 実家に戻って来てそろそろ2月というところ。そろそろ何かしらの仕事に就かなければならないと思いつつも、それが上手く行っていない状態です。

 そんな中で当主であるお兄さまに呼ばれるという事は、最悪出て行くように指示される可能性があります。仕事をしていない者を屋敷に置いておく必要もありませんからね。



 時間的にちょうど昼食時であったため、呼び出しと同時に昼食をとることになりました。


「それで、呼び出しについてなのですが」


 昼食を食べ終えたところでお兄様にそう切り出します。何事も知るのなら早い方が良いですからね。


「ああ、そう身構えなくてもいい。別に出て行けなどというつもりはないのだ」

「そうですか」


 周囲の雰囲気からして全くその意見が出ていないという訳でもなさそうですが、そう言っていただけるのは有り難いですね。


「ではなぜ私は呼ばれたのでしょう?」

「それについてだが、ロジーはグレシア辺境伯様を知っているか?」

「知っていますが……」


 グレシア辺境伯と言えば亡くなった奥様と懇意にしていた貴族の名です。ですが、何故ここでその方が出て来るのでしょうか? 


「この前、そこの屋敷にガーレット国からの騎士団が訪れていたようだ」

「はい?」


 何故ガーレット国の騎士団がグレシア辺境伯の屋敷に訪れたのでしょう。理由がわかりませんね。


「表向きは友好としていたらしいが、どうもある人物を連れ戻しに来ていたらしい。まあ、それに失敗してすぐに国へ戻ったらしいが」

「え?」


 5年前の事件から減ってしまった数を未だに補充がされていない騎士団を使ってまで、連れ戻したい人物となるとそうそう思いつきません。


 少し前にレミリアお嬢様の捜索がガーレット国内でされていると聞き及んでいましたが、まさかお嬢様がこちらに来ている可能性があるのでしょうか?


「そう言えばグレシア辺境伯の2番目の子息が最近婚姻したことを発表したな。相手の名前は……確かレミリア、だったか」


 なるほどそう言う事ですか。お兄様は最初から私がどうするかわかった上で話を進めていたという事ですか。


「お兄様。わかっていて言っていますよね。それは?」

「はは、さてな。しかし、グレシア辺境伯領もここからそう離れていない。少し野次馬をしに行くのも有りなのではないか?」

「そうですね。行ってみるのもいいかもしれませんね」


 ここで仕事を探しているよりも、気分転換がてらお嬢様の様子を確認してくるのもいいでしょう。少なくとも、この辺りで私が着けるような仕事は無いようですし、探す範囲を広めてみるのも有りなのは確かです。


 そうして翌日の朝、私はグレシア辺境伯領へ向かう乗合馬車に乗っていました。

 



 実家を出た翌日。私はグレシア辺境伯領に到着していました。辺境伯様のお屋敷がある場所にはまだ辿り着いてはいませんが、今日中には到着する見込みです。


 ここまで来ておいて今更ですが、お嬢様に会ったとして、どのような反応をすればいいのでしょう。


 あの後に聞いた話では、お嬢様はこちら、アレンシア王国へ亡命という形で移動してきているようです。その過程でグレシア辺境伯様のところで保護されたようですね。


 しかし、私が解雇された後に亡命とは、私が居なくなった後に何があったのでしょうか。耐え証のお嬢様がすぐさま亡命を選ぶのは相当状況が悪かったとみえます。


 まさか、それもオグラン侯爵様の策略の内なのでしょうか。私の時も手を回していましたし可能性は高そうです。


 グレシア辺境伯様のお屋敷は周囲の土地よりも一番高い場所にあります。当然乗合場所では近くまで行きませんし、むしろ止まる場所が固定されているためやや離れた位置で降りることになります。


「なだらかとはいえ、この年で長く坂道を歩くのはなかなかに堪えますね」


 馬車で移動出来れば気にならない程度の坂ですが、人が歩くとなれば平地を歩くよりも当然疲れます。ましてや普段あまりこのような環境に居ない山場を越えた女となれば当然のことでしょう。


「荷物が少なかったのは幸いでしたね」


 疲れを誤魔化すために一人言を呟く。さすがに無言で歩き続けるのはつらいです。



 乗合馬車を降りて1時間程歩いたところでようやくグレシア辺境伯様の屋敷の前に着きました。

 屋敷の前とは言いましたが、正確には屋敷が立っている敷地の前ですね。そこの門の前に立つ騎士に話しかけます。


「すいません。本日、グレシア辺境伯様と面会を予定している者ですが、中へ入れては貰えませんか? 許可証はこちらになります」


 許可証を騎士に見せている間、近くから伝書鳥が屋敷の方へ飛んでいくのが見えました。おそらく私が来たことを屋敷の中に居る使用人へ伝えるための物でしょう。


 そして許可証が本物であることがわかると、門の中に入ることが出来ました。


 さて、これで後はグレシア辺境伯様に会ってレミリアお嬢様との面会の許可を得なければなりませんね。

 

「ようこそ。中にお入りください」


 屋敷の前に到着すると、屋敷の前に立っていた執事の方が屋敷のドアを開け中へ誘導してくださいました。そして屋敷の中に入るとすぐ視界に飛び込んで来た人物は――


「……ロジー? どうしてここに?」


 薄らと驚いた表情をしているレミリアお嬢様でした。


 まさかレミリア様が出迎えに出て来るとは。想定していませんでした。グレシア辺境伯様もなかなかの人物の様です。


 ですが、レミリアお嬢様が驚いている表情を見るのはいつ以来でしょうね。少なくとも5年は見ていなかった気もします。


「お久ぶりですね。レミリアお嬢様。お元気でしたか?」


 そう言うとレミリアお嬢様は表情を変え、安堵したような顔つきになりました。

 何故でしょう。その表情を見ていると、とても嬉しい気持ちになりますね。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る