該当する章:母国での騒動と影響
後手 ※他視点
「ぬぅ」
ガーレット国の大臣が騎士団からの報告書を眺めながら唸る。
この報告書はレミリア・オグランを連れ戻すためにアレンシア王国へ派遣した者たちが書いた物だ。この報告書の内容はある意味想定内で想定外の物だった。
大臣も今回の遠征は追い返される可能性が高いと睨んでいた。そもそもこの遠征も一番の目的はレミリア・オグランを匿っている貴族へ当人の囲い込みをしないようにとのけん制だ。故に連れ戻すのは2の次でもあった。しかし、まさかアレンシア王国内に入る事も出来ず追い返されるとは微塵も思っていなかったのだ。
「おや、どうしましたか?」
「宰相か」
どうしたものかと眉間にしわを寄せ書類を睨んでいた大臣が顔を上げる。
「その書類は?」
「この前、其方からの報告を受けアレンシア側へ騎士を送った際の物だ」
大臣はそう言って宰相に報告書を渡す。
「……ああ、なるほど。確かにこう言われて追い返されればどうすることも出来ないでしょうね」
「ああ、どうすることも出来ん。一応、国王の方へ掛け合ってアレンシア王国からの許可を得る手続きをしているが、さてな」
「許可をえられるかどうかはともかく、難しいでしょうな」
指示書もなく騎士団が国境を越えようとしたことにより、ガーレット国がレミリア・オグランを連れ戻そうとしているのがアレンシア王国側に伝わってしまった。これからの行動はどうあっても後手に回ることになってしまうだろう。
もし、アレンシア王国側がレミリア・オグランを確保しようとしているならば、連れ戻されないようここで何かしらの策を打って来るはずだ。あの人物はそれくらいに価値のある存在なのだ。
「いろいろと後手に回り過ぎている。あれが逃げ出したという報告もなく、同程度の腕だと報告されていた妹は全く姉には及ばない」
「確認不足ですな。手が少なくなっているとはいえ、第2王子周りの管理が甘くなっていたのが原因でしょう」
「理解している」
第2王子の婚約発表の際に婚約者が変わっていることにすぐ気付けば、変わった婚約者に関する報告をしっかりと確認していれば、今の事態にはなっていなかった可能性は高い。
それを理解している大臣は第2王子の周囲の観察がおざなりにしていたことを後悔していた。
「ともかく、少しでも可能性があるならアレンシア王国への騎士団の派遣は実行するつもりだ」
「そうですか」
宰相は大臣の発言に諦めが悪い、そう思いながら返事をする。
「しかし、今回の結果から騎士団の者だけでは交渉が上手くいくとは思えんな」
「ああ。それでしたら私の関係者を交渉役として随行させましょうか?」
「本当か?」
大臣は宰相が交渉ごとの達人であることを知っている。その関係者であれば同程度とは言わないまでも、相当交渉の上手い相手なのだろうと想像した。
「ええ」
「なら、申し訳ないが交渉役の方はお願いしよう」
願ってもいない。大臣はそう思いながら宰相へ協力の願いを申し入れる。
「わかりました。派遣する日時が決まり次第、こちらに連絡をください」
「了解した」
そうして、再度アレンシア王国へ騎士団を向かわせる計画の準備が進んで行った。
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